第44話 領地改革始めます
その後の数日はクリスと一緒に視察した時に考えた領地改革の案を書類にまとめる事務をして過ごした。
ワイン伯爵が王都から戻って来たらいろいろ説明しないとだし、実際に事業をするのにはいろいろ準備もある。
事業にかかる費用の見積もりも大切だ。
「費用対効果を考えろ!」という財務課の係長の声が聞こえる気がする。
でもさあ、伯爵令嬢が事務仕事してるなんて普通ありえなくない?
伯爵令嬢だったら舞踏会に出てイケメンと出会って恋に落ちるとかってのが定番じゃないの?
何が悲しくて異世界に来て伯爵令嬢になりながら事務仕事してるのよ……。
でも私はこのワイン伯爵領を豊かにしたいという気持ちは本当のことだ。
私を拾ってくれたワイン伯爵やイケメンの弟のクリスのために頑張りたい。
美紀だったら笑うでしょうね。
「あんた異世界に行ってまで何してるのよ。異世界でも事務仕事なんて聞いたことないわよ」ってね。
美紀に会いたいなあ。元気にしてるかなあ。
モチ大福屋のイチゴ大福をまた二人で食べたいわ。
そしてその日の夕方ワイン伯爵が王都から帰ってきた。
少し前に今日の夕方に帰るって連絡があったから私はローズ夫人とクリスと一緒にワイン伯爵を出迎える。
「父上。お帰りなさい」
「お父様。お帰りなさいませ」
ワイン伯爵は馬車から降りると笑顔で私たちを見る。
「おお。留守番ご苦労だったな。アリサ! 聞いてくれ! 国王様よりお褒めの言葉をいただいたんだ!」
ワイン伯爵は私の両手を握りしめて私に報告してくる。
分かった、分かったって! そんなに国王様に褒められたのが嬉しいのね。
「どんなことで褒められたんですか?」
私が聞くとワイン伯爵は「よくぞ聞いてくれた」という顔をする。
マジでこの人って考えてることが顔に出るタイプね。
人としてはいいかもしれないけど統治者としては問題じゃないかな?
「まずは資料が見やすいと言われてさらに説明も分かりやすいと褒めてくださったのだ。今回の予算は多くもらえるかもしれないよ!」
「それは良かったですわ。予算獲得は何をするにも大事ですから」
そう事業を行うためには「お金」が必要なのはこの世界でも同じ。
「留守中は何もなかったかい?」
ワイン伯爵の言葉に私とクリスは顔を見合わせる。
「実はいろいろありましたの。でも今日はお父様もお疲れでしょうから明日クリスとお話しますわ」
そう、人間には休養は大切である。
疲れた頭では物事を判断することはできない。
「そうかい。では今日はゆっくり休むとしよう。アリサとクリスにはお土産を買ってきたから夕食の時に渡そう」
「まあ、ありがとうございます」
そして次の日、私とクリスから留守中にあった出来事と領地改革案を提示されたワイン伯爵の驚きの声が響き渡ったのである。




