第43話 最後には契約書がモノをいいます
帰りの馬車の中、私は女性たちの言葉を思い出していた。
女性たちはあまり雇ってくれる商会が無いと言っていた。
働きたくても雇ってもらえないなら働けない。
ならば雇用主側にも女性も充分に戦力になるのだという認識を持ってもらう必要があるわね。
そういえばこの世界では商会で働く場合はまずどうするんだろう?
ハローワークみたいなところがあるのかな。
「ねえ、クリス。この国では平民はどうやって働き場所を見つけるの?」
「そうですねえ。たいがいは求人募集の紙を見て応募して面接してお互いの条件が一致したら働くことになります」
「ふ~ん。職業を紹介してくれる場所みたいなところがあるってこと?」
「はい。商会の経営者たちや貴族なんかがその紹介所に募集の書類を出すんです」
そうか。ハローワークみたいなところはあるのね。
「条件が一致したら雇用契約書とか結ぶの?」
「こよう……契約書ですか? 契約書は個人単位では作成しませんよ」
「え? じゃあ、面接で条件が一致したら働くって言ってたけど、もし働いて面接の時に雇用主側が言っていた賃金が払われなかったらどうなるの?」
「まあ、その賃金で不満なら仕事を辞めるってことですかね」
何それ? それって圧倒的に雇われる方が不利益を被る確率高いじゃない!
「ちょっと待って! それじゃあ、面接時に約束したことが守られなくても雇用主は罰せられないってこと!?」
「そうですね……。面接時に提示した条件を証明することはできませんし……」
「だからそういう時のために契約書があるんでしょ? この国の法律書にも契約書に関する項目があったはずよ」
私は自分の記憶を辿る。
確かに「ダイアモンド王国の法律書」には契約書の項目があったはずだ。
「はい。確かにありますがそれは一般的に領主同士とか国同士が約束する時に契約書を作成するのが普通で一般人が契約書で契約して何かするってことはありません」
「じゃあ、一般人は口約束だけってこと?」
「基本的にそうですよ」
「……ダメよ。それではダメよ!」
「え? アリサ?」
私はカバンから「ダイアモンド王国の法律書」を取り出して契約に関する項目を調べたがどこにも契約書を作るのは領主同士の場合とか国同士の場合とは書いてない。
つまり一般人が契約書を交わしてその契約書に基づいて働いたりすることは法律上可能ということだ。
それに前に契約書に違反があった場合は「仲裁人」が中に入って契約違反者を罰すると言っていたではないか。
私は「仲裁人」に関する項目も確認したがそこにも領主同士の場合とかとは書いてない。
あくまで仲裁人は契約違反者を取り締まることをすることしか書いてない。
「全ては『契約書』がモノをいうのよ」
「え? 確かに契約書違反は罪になりますが……」
公務員は企業と契約する場合は当たり前だが契約書を作成して仕事をしてもらう。
何か問題が起きた場合は最終的には「契約書」がモノをいう。
基本的には「標準契約書」というものがありその「標準契約書」に各案件別に条件を書いたモノをくっつけて一つの契約書にして契約を結ぶのが普通だ。
「標準契約書」に書かれている条項はどんな契約にも通用するいわゆる「共通事項」だ。
標準契約書には違反した場合は契約を解除することができるとかその場合は違約金を払うなどが書いてある。
だが「標準契約書」では各事業の内容を反映した契約書にはなっていないのでその「標準契約書」にプラスして事業ごとの契約条件を足して「契約書」とするのだ。
役所は契約書無しには民間企業に仕事をさせることはできない。
「雇用契約書は絶対必要だわ。特にこの国みたいに身分制度があったりするならね」
身分制度では基本的に身分の高い方が権力を持っているのが普通だ。
だからこそ身分が高いことを理由に不当に安い賃金で一般人を働かせることがあってはならない。
この国には幸いにも法律が存在し法律によって国が成り立っている。
ならばこの法律を最大限活かすことが必要だ。
「いい、クリス。これからは領内の雇用主に雇用者との雇用契約書を結ぶことを義務化した方がいいわ」
「なぜですか?」
「民が泣き寝入りしないためよ」
私はクリスになぜ契約書が必要なのかを説明した。
クリスは「なるほど」と頷いてる。
雇用主の気分しだいで不当な扱いを受けるなんてブラック企業ならぬブラック国よ!
ダイアモンド王国なんてキラキラした名前でも中身がどす黒かったらダイアモンドが光輝くわけないでしょうが!!




