第41話 警備員の人材探してます
「そうだ! 警備隊まではいかなくても警備員ならどうかな?」
私の父は実は過去にリストラされて再就職するまでの間に警備員の仕事をしていた。
警備員には主に施設を警備する者、工事現場なんかで車を誘導する交通の警備や、現金輸送などの警備、そして要人の身辺警護などの種類がある。
父は施設警備で働いていた。
あまり高収入は得られなかったが警察が公務員に対して警備員は簡単な研修でなれる職業だ。
この世界では警備隊はいわゆる警察であり、もしこの世界にも警備員なるものがいたのならそれらに警備隊の仕事の一部を任せればいい。
警備隊という公務員を増やすより安価で済むはず。
「ねえ? この国には警備員はいないの?」
「警備隊ではなくてですか?」
「そうよ。民間経営の警備をする会社ってないの?」
いろんなことを民間委託するのは自治体としては当たり前にやっていることだ。
「う~ん。警備をすることを商売にしている者たちで警備隊以外というのはあまり聞いたことないですね」
クリスの言葉に私はガッカリする。
この世界には警備会社は無いってことかな。
「でも……例えば警備隊以外で人を警備したりする仕事をする者は『傭兵』とかだったらいますが……」
「傭兵ねえ……」
「傭兵ならお金で雇って囚人が逃げ出さないように見張りの仕事をさせることは可能ですが……」
「何か問題が?」
私が聞くとクリスは難しい顔で答える。
「傭兵は腕は立ちますが個人で仕事を請け負うことが多く、警備隊のように集団行動が苦手な人間が多いです」
なるほど。警備隊のように腕は立つが集団行動が苦手では数多くの囚人たちを見張りながら働かせる仕事は無理かもしれない。
それに傭兵って戦争する時とかに助っ人みたいに雇われるイメージが私にはある。
まあ、お金で雇えて人を警護する仕事をするのも傭兵の仕事の一つだというのは分かるが。
確かに傭兵は一人狼っぽいイメージがある。
ということは、警備隊より安い賃金で剣術の腕があり、集団行動ができる者たちがいればいいってこと?
それでいて領民以外の人物であることが望ましいなんて都合のいい人間たちがいるかしら?
私がそんなことを考えていると馬車がカリン村に着いた。
「着きましたよ。アリサ」
クリスの言葉で私はハッと我に返る。
「そう。じゃあ、とりあえず村人の仕事を視察しましょう」
私とクリスが馬車を降りると近くにいた村人たちは驚きの表情をしていた。
やはりワイン伯爵家の人間が直接村に来るのは珍しいのだろう。
ワイン伯爵って自分の領地内の視察ってやってないのかな?
もしそうならこれからは領地内は自分の目で見るようにと進言した方がいいだろう。
現場を知ることが良き統治者になるためには必要なのだから。
そこへ男性が慌ててやって来る。
「これはクリスタル様、アリサ様。今日はどうしてこの村に?」
どうやら村長のようだ。
「村長さん。忙しいところお邪魔してすみません。今日は村人の生活の視察です。仕事の邪魔はなるべくしないようにしますから村人の仕事や生活を見せてもらっていいですか?」
クリスがとびきりの笑顔を見せる。
う! キラキラ度が増しているわ!
「村人の生活や仕事の視察ですか?私どもの村が何か気に障るようなことをしましたでしょうか?」
「いいえ。そんなことはないわ。これは単なる私のワガママなの。私って伯爵家に養女に入ったけど伯爵家の人間として領内を見てみたくてね」
「はあ、さようでございますか」
私も窓口業務で鍛えた笑顔を村長に向ける。
村長は少し安心したようだ。
そうよね。何か村長に落ち度があって犯罪者として捕まったら死刑だもんね。
普通に怖いわよね。
その気持ちよく分かるわ、村長さん。




