第4話 伯爵令嬢になりました
私はクリスの両親であろう二人に近付く。
女性の方は銀髪に青い瞳。クリスと一緒だ。
しかも美人だわ。
美人というのはこの女性のような人を言うのよ。
クリスは母親似なのね。
「私はアリサ・ホシツキと言います。助けていただいてありがとうございました」
私は茶髪の男性に頭を下げてお礼を言う。
「いや、たいした怪我がなくて良かったよ。私はカクテル・ロゼ・ワイン伯爵だ。よろしく、アリサ」
「………」
いや、クリスの父親だからそれなりに覚悟はしていたけどさ。
カクテルって名前はなに?
カクテル・ロゼ・ワインなんてお酒の名前ですか!?
ワイン伯爵は笑顔で私に握手を求める。
私は引きつった顔をしながらワイン伯爵と握手を交わす。
「こちらは妻のローズ・ロゼ・ワインだ」
「ローズです。よろしくね。アリサ」
ローズ夫人も笑顔で私と握手をした。
ローズ・ロゼ・ワインかあ。
まあ、クリスタルやカクテルよりはマシな名前かしら。
とりあえずこの異世界ではネーミングセンスが皆無ってことはよ~く分かったわ。
「これからのことは座って話そう」
そう言ってワイン伯爵夫妻とクリスとソファに座った。
「それでアリサはどうして我が家の庭で倒れていたんだい?」
ワイン伯爵の問いに私は少し考えるが「異世界から来ました」なんて言ったら絶対頭のおかしな人物決定よね。
ここはどう答えたらいいかな。
「それがよく覚えてないんです。酷い嵐に巻き込まれて家族と離れ離れになって、その後の記憶が無くて……」
これは完全な嘘ではない。
穴に落ちた時に嵐に巻き込まれたような感じになったのは覚えているし、家族とはおそらくもう会えないことも事実だし。
家族のことを考えるとやはり少し涙が出てきた。
ワイン伯爵は悲痛な顔をする。
「そんな辛いことがあったんだね……。大丈夫だよ、今日から君は私たちの娘だ!」
「はい?」
私はワイン伯爵の言ってることを理解するのに時間がかかった。
娘? 私がワイン伯爵の?
「大丈夫よ。アリサ。私たちは娘が欲しいと思っていたの。クリスは私たちの息子だけど一人ぐらい家族が増えてもかまわないわ」
ローズ夫人はにこやかに優しい目で私を見る。
「あの……。私を養女にするってことですか?」
「そのとおりだ。今日からアリサは私たちの娘だ」
ワイン伯爵は力強く断言する。
もしも~し、そんなに簡単に伯爵家に得体の知れない人間を入れてもいいんですか?
ってか、私は伯爵令嬢になるの?
そりゃ、昔から本を読んでは貴族に憧れていたことはあるけどさ。
こんなあっさり伯爵令嬢になれるなんて話がうまくいき過ぎてませんか?
私の心に「甘い言葉に気をつけるべし」という美紀の言葉が思い出された。
私がイケメンのお願いを聞いてしまうクセを知っていた親友はことあるごとに私に注意をしてきた。
「僕のお姉様では不服ですか?」
クリスが不安そうに私を見る。
私はクリスと目を合わせた。
このイケメン予備軍が私の弟になるの?
弟になったらずっとクリスを見ていられるわね。それって最高なんじゃない?
さすがにクリスの年齢じゃ恋愛対象にはならないけどさ。
イケメンを育てる楽しみって最高じゃないの?
私には日本にいた頃、兄と双子の弟がいた。
双子の弟は生意気なばかりでいつも喧嘩してたけどクリスって性格も良さそうだし、クリスが弟になるのはおいしい話だわ。
「わ、私でよければぜひ家族にしてください!」
私は気付いたらそうワイン伯爵に答えていた。
ワイン伯爵夫妻もクリスも笑顔で頷いた。
伯爵令嬢になるなんて夢みたいだけど異世界なんだからいいわよね。
でも美紀に話したら「貴女が伯爵令嬢?笑わせないで」って大笑いされるに違いないけど。
だけど知り合いのいないこの世界で家族になってくれる人がいるだけ私は幸運よ。