第37話 兄は即応予備自衛官です
「ああ、それは若い男は軍人として王国軍やワイン伯爵家の私軍に取られてしまうので村には若い男がいないのです」
「え? 軍人になるために村には若い男がいないの?」
「はい。もちろん全員ってわけではないですが、若い男は少ないです」
「村長の言ってることは本当なの? クリス」
若い男は軍人に取られるなんてこの国には徴兵制度とかあるの?
「あ、はい。国民の若い男性は基本的に一部の割合で王国軍や貴族の私軍に入ります」
「大国に攻められたらあっという間に潰されちゃうような国に軍隊なんているの?」
「アリサ……それは思っていても言ってはいけません……」
クリスの言葉に私はハッとなる。
いけない。本音が出てしまったわ。
クリスの言う通り負けると分かってても自分の国を守ろうとするのは国王の務めよね。
「ホホホ……ごめんなさい。私としたことが失言だったわ」
私は笑って誤魔化す。
でも王国軍はまだしもワイン伯爵家の私軍って本当に必要なの?
クリスの話では軍人って基本的にいつも訓練しかしないみたいだし……。
せめて私軍の軍人を村に帰せば男手が戻るんじゃない?
「ねえ、クリス。ワイン伯爵家の私軍の軍人を全て村に帰すことはできない?」
「軍人をですか? それは無理だと思いますよ」
「なぜ? だって他の領主とは戦いにならないって言ってたじゃない?」
「それは今の領主同士は仲が良好なだけでそれがいつまでも続くとは限りません。軍人がいないとなれば他の領主も考えが変わるかもしれませんし」
「まあ、それは一理あるわね」
ご近所さん同士が何かのきっかけで仲が悪くなることはよくある。
ご近所トラブルになってここから引っ越すなんてことはできないもんね。
「それに領主貴族の私軍はいざという時に王国軍を応援するための役目もあるんです。なので軍人はいらないということにはなりません」
「そうなのね。いざという時は王国軍を応援しなければいけないのか……」
そこで私の頭に兄の顔が浮かんだ。
「そうだ! 即応予備自衛官よ!」
「はい? そくおう……よび……?」
「即応予備自衛官制度なら導入可能よ!」
「何ですか? それって?」
私の兄は元陸上自衛官だった。そして今は民間企業で働きながら即応予備自衛官をやっていた。
即応予備自衛官は自衛隊を退職後になれるもので普段は民間企業で働いているがいざという時に招集されて自衛隊の仕事をする人間たちのことだ。
即応予備自衛官は年間30日間の訓練をすることが義務付けられている。
なぜなら自衛官という仕事は特殊なものであり普段何もしないで「じゃあ、自衛隊の仕事してください」って言われてできる仕事ではないからだ。
だがもちろん30日間の訓練を一度にするわけではない。基本的に二日間、三日間、四日間の訓練を行う。
しかもそれぞれの訓練は年間スケジュールで何回かに分けて同じ訓練をする機会を作る。
例えばA訓練は6月、9月、12月とかにA訓練を行う計画を作り即応予備自衛官は自分の都合でA訓練をその三回の機会からどこで受けるか自分で決められるのだ。
学校で言えば受ける科目の授業を自分だけの時間割を作って受けるということだ。
そして一年間にトータルで30日間訓練をすればよいのである。
もちろん訓練参加の時は仕事を休んで来る人もいるのでお金が支給される。
それは即応予備自衛官を雇っている企業側にも一定の金額が支給される。
つまりお金あげるからその人を訓練に参加させてあげてねと会社側にお願いするのだ。
大雑把に言えばこんな感じの制度である。
「即応予備自衛官制度というのはね……」
私はクリスに即応予備自衛官制度の説明をした。
「なるほど。では普段は畑仕事と訓練をして過ごし、有事の時はすぐに軍人に戻れるということですね?」
「そういうこと。これなら常に軍人をたくさん雇っておく必要はないし、いざという時にはその人間たちは軍人として活躍できるし、村も若い男の男手が確保できるしいい案じゃない?」
「そうですね。とてもいい案だと思います」
「でも全員を即応予備自衛官にする必要はないわ」
「というとどういうことですか?」
クリスが聞くので私はジャッカルを見た。
「ジャッカルのような軍人の幹部はそのまま軍人として雇って軍人の仕事をしてもらうのよ。常に国や領地の情勢を知ったり一般軍人の訓練の計画を立てる人間は必要でしょう?」
「そうですね。そのような制度にできないか、父上と相談してみます」
そうね。ワイン伯爵には私からも進言してみましょう。
それにしてもお兄ちゃん元気かな?
相変わらず二次元の嫁と結婚してるのかな?
私の兄はアニメ好きでいつもアニメの女の子たちを見ては「俺の嫁!」と言ってた残念な男だった。
でも私は兄から聞いた自衛隊の知識が役に立ったことは嬉しかった。
お兄ちゃん! いつかは三次元のお嫁さん見つけて幸せになってね!




