第36話 できる規程は立派な根拠です
「何で脱税の罪が「死刑」なの!? 罰金とか懲役刑じゃないの!?」
「ちょうえき……? アリサの言ってることはよく分かりませんが、この国では犯罪を犯して犯罪者と認定された者は死刑になるのが普通です」
なんなの!? その横暴な刑罰は?
「それってどんな罪でも?」
「はい。犯罪者は客観的な証拠があれば犯罪者認定を受けます。それは窃盗でも詐欺でも殺人でも同じです。そして犯罪者認定を受けた者は一旦刑務所に送られて死刑になる日を待つことになります」
はあ!? 殺人も窃盗も詐欺も同じ「死刑」ってありえなくない?
殺人はともかく窃盗や詐欺で死刑なんて刑罰が重すぎでしょうよ。
「それって法律や規程とか規則で決まってるの?」
「はい。もちろんです」
私はクリスの言葉に自分の荷物から「ダイアモンド王国の法律書」を取り出した。
探したのは「犯罪者の刑罰」の項目だ。
「なになに、犯罪を犯して犯罪者の認定を受けた者は死刑とする……」
本当だわ。クリスの言ったとおりに書いてある……。
だが、私は条文の続きがあることに気付く。
「ただし、国王及び国王代理人又は領主貴族が特別に認めた場合は死刑以外の刑罰に処することができる……。大丈夫よ、クリス。これは『できる規程』だわ!」
「できるきてい……って何ですか?」
通称公務員に『できる規程』と呼ばれているのはこの条文のように、「基本は○○です」の後に続く「ただし○○の場合は○○とすることができる」と書いてあるモノのことを指す。
今回の場合は「犯罪者は死刑です」の後に「ただし国王及び国王代理人又は領主貴族が特別に認めた場合は死刑以外の刑罰に処することが『できる』」と書いてある。
つまりこの但し書きに書いてある部分を根拠に領主貴族、今回はワイン伯爵が特別に認めれば村長が犯罪者認定を受けても「死刑」ではない刑罰を村長に与えることができるのだ。
これは法律や規程違反ではない。
但し書きの部分も含めてその条文は成り立っているからだ。
なぜ規程や規則の条文はこんな書き方になっているかというとこの世には何事も「例外」というものがあるからだ。
この世の全ての出来事に対応できる法律を作っていたら法律など無限の文章になるだろう。
法律は「基本はこうです」と決めるモノだがその「例外」の案件ができた場合のために「○○とすることができる」ということを書いておくのだ。
そう書いておくことで「例外」の案件に対応することができるのである。
「できる規程というのはね。こういう但し書きで○○にすることができると書いてあるモノのことを言うのよ」
「そうなんですか?」
「そう。これを根拠にすればワイン伯爵が村長に「死刑」以外の刑罰を与えることができるってことよ」
「なるほど。勉強になります、アリサ」
公務員の事務はいかなる場合でも法律や規程や規則を根拠に事務をしなければならないのだ。
「では今回のことはとりあえず父上が帰って来たら対応しましょう。一応、村長さんには犯罪者の認定を受けるべくこのお金を証拠として身柄は一時的に刑務所に入ってもらいましょう」
クリスの言葉に村長は項垂れる。
「分かりました。私は刑務所に行きます。村のことは副村長に任せることにします」
「そうですね。それがいいでしょう」
どうやらこの案件は丸く収まりそうね。
あ、でも村長に聞くことあったんだった。
「あの、村長さん。刑務所に行く前に一つ教えて欲しいことが……」
「はい。何でしょうか?」
「来る時に見かけたんだけど畑で働いていたのが皆年配の男性ばかりだったけどこの村には若い男性はいないの?」
私は気になっていたことを聞いてみた。




