第35話 脱税には理由がありました
私とクリスに土下座する村長をなんとか椅子に座らせて私は口を開いた。
「村長さん。このお金が何なのか正直に言ってくれたらこちらも対応を考える余地はありますわ」
私はニッコリと笑顔を浮かべる。
村長の顔は真っ青になって体も震えている。
まあ、そうよね。これ以上の物的証拠は無いし、ここにいる皆が証人だしね。
「は、はい。実は今から10年ほど前にこの村は酷い水害にあったんです……」
「水害?」
「はい。このイリン村の近くには大きな川が流れてましてその堤防が大雨で決壊したんです」
「それは大変だったわね」
「ええ。その時はワイン伯爵様から村へ救済金が支給されました」
なるほどね。災害被害に対してのお金が伯爵から出たのね。
「ところが……」
「何か問題があったの?」
村長はクリスの顔を見て言いづらそうにしている。
伯爵家の対応に問題があったのだろうか。
「村長さん。僕のことは気にせず真実を教えてください」
クリスがそう言うと村長が話の続きを話し始める。
クリスが空気を読める人間で助かるわ。
「実は伯爵様からもらったお金では村の復興には足りなくて、伯爵様にもっとお金が欲しいと願い出たんですが……」
「お金を貰えなかったの?」
「はい。その年は領内はどこも不作で伯爵様の話ではこれ以上のお金は出せないと言われ、仕方なくできる部分から村を立て直しました」
「それで?」
「村の復興にはやはりお金が必要でした。もちろん伯爵様が意地悪でお金を出してくれなかったとは思っていません」
そりゃ、そうでしょうよ。
ワイン伯爵なんて「善良」が服着てるような人物だもの。
その時は本当にお金がなかったんだと思うわ。
「それで考えついたのは税金を誤魔化すことでした。不作と報告すれば税金も安く済みますので。報告書の数量を誤魔化して作ったお金を村の復興のお金に回しました」
なるほどね。それは村長としては苦しい判断だったでしょうね。
私は村長の家の部屋を見渡す。
家具も中古品で高価だと思われる物はない。
たぶん村長の言ってることは本当だろう。
「でももう村は復興したんじゃないの?」
「はい。5年間かけて元の村の生活水準まで戻りました。本当は復興したら税金はちゃんと払おうと思っていたんです……でも今度は怖くなってしまって……」
「怖い?」
「また水害に襲われるんじゃないかとか、その他の災害で被害が出るんじゃないかとか。そしたらまたお金が必要になると思ったらその時のためにお金を貯めておこうと思ってしまって……」
そうか。だから脱税を止めなかったね。
「そうでしたか。僕はその水害の話は知りませんでしたが領主の後継者として領民の生活を守れなかったことは申し訳なく思います」
クリスは村長に謝った。
その言葉に村長は慌ててクリスに言う。
「いいえ、クリスタル様。ワイン伯爵様は最大限努力してくださいました。それは誰よりもこの私が知っています。……なのに私はワイン伯爵様を騙してしまいました」
村長は涙を浮かべている。
本当に村の復興が大変な仕事だったのだろう。
これは情状酌量の余地はあるわね。
「私は犯罪者と認定されてもいいです。でもどうか村に罰を与えることはご容赦ください!」
そう言って村長はまた椅子から床に座って土下座をする。
仕方ないわね。ここは村長への罰だけで済ませてあげましょう。
「ねえ、クリス。私からもお願いするわ。ここは村長への罰だけで済ませることはできない?」
「僕もそう思いますが村長が犯罪者と認定されたら村長は死刑になってしまいますよ?」
「はあ!?」
今、何て言ったのクリス?
脱税の罪が「死刑」ですって!!!




