第30話 あのお金がありません
「それとさ。この国のお金って見せてもらえる?」
「お金ですか?」
「そう。私、まだお金を見たことないのよね」
ローズ夫人とドレスを買いに行った時はローズ夫人が「支払いは伯爵家にしてちょうだい」って言っていわゆるツケで買ってしまった。
それに村長への功労金についてはワイン伯爵が支払っていたので私はこの世界のお金を見ていない。
まあ、お金の単位が「円」だからなんとなく想像はつくけどさ。
「分かりました。ちょっと待っててください」
クリスはそう言って一度リビングから出て行ったがすぐに戻ってきた。
「これがこの国で使われているお金の種類です。一万円札、五千円札、千円札、500円玉、100円玉、50円玉、10円玉、5円玉、1円玉です」
クリスはテーブルにお金を置いていく。
期待通りで涙が出るわ。
本当にこの世界の神様のご都合主義はどこまでも我が道を行くって感じね。
でもあれが無いわ。
「ねえ? クリス。二千円札がないんだけど……」
そう、世の中の人の記憶から忘れがちだが日本には二千円札が存在する。
私はもうあまり見たことも使ったこともないけどね。
「二千円札ですか? そんなものはありませんよ」
そう、二千円札が無いなんて一部の人から苦情が来そうだけど、この世界の神様のご都合主義には逆らわない方がいいわよ。
「そう。まあ、あってもあまり使わないしね」
「アリサの国では二千円札があったんですか?」
「そうね。もうどんな絵が印刷されてたか思い出せないけど……」
「それって、お金として役に立つんですか?」
「そこは深く追求しないで、クリス。いろいろ問題ある議論だから」
「はあ……」
私は一万円札を手に取り印刷されている人物を見る。
さすがに日本と同じ人物ではない。
「クリス。このお札に印刷されているのは誰?」
「ああ。それは今の国王様です」
「なるほど。国王様はこんな顔してるのね」
でも待って。お札を印刷する技術がこの国にあるってこと?
ならコピー機とかもあるんじゃないの?
「クリス。この紙はどうやって印刷してるの?」
「国が管理している施設でですが、印刷技術とかは国家機密らしくどうやって作っているのかは僕も分かりません」
「ふ~ん。国家機密ねえ」
国家機密ってよりは神様のご都合主義のような気がするわね。
はい、そのとおりです。
「まあ、国家機密なら仕方ないわね。でもお金を確認できて助かったわ。ありがとう、クリス」
「いえ、僕にできることなら何でも言ってください」
クリスの笑顔に私も笑顔になる。




