第260話 天才画家がいました
ブランの寝室にはたくさんの絵が置いてあった。
それらは全て人物画でありよく見ると描かれている人物は私だ。
自分の絵がこんなにたくさんあるとちょっと怖いわね。
これがブランが隠したい物だったのか。
「ここにある絵は全部私の人物画ですか?」
「ああ、全てアリサの絵だ。私は浮気はしない主義でな」
この中に別の女性の絵があってもそれだけでブランが浮気したなど私は思わない。
むしろ他の女性の絵が混ざっていた方が単なる「絵が好きな王太子」と判断しただろう。
しかし絵の人物は全て私。
確かにこれはちょっと異様な光景だ。
ブランが隠したくなる気持ちは分かるなあ。
これって私への執着心の塊みたいで普通の人だったらひいちゃうわよね。
そんな気分になりながら私は絵に近付いてよく見てみるとその画力の素晴らしさに気付く。
私の顔の特徴が繊細に描かれていてまるで生きているようにさえ感じる。
絵のモデルが私だということは除けばこの絵を描いた人ってかなり才能あるわよね。
誰が描いたんだろ。
「ブラン様。この絵は誰に描いてもらったのですか?」
「これは全て私が自分で描いたものだ」
「え? ブラン様が!?」
すごいじゃない! ブランって絵の才能があったのね。
この腕前なら王太子じゃなくなっても画家として生きていけるレベルよ!
「ブラン様は絵を描く才能があったんですね。私以外の絵も描けばいいのにもったいないです」
どんなに才能溢れる絵でもモデルが私ではせっかくの才能を潰してる気がしてしまう。
「いや、私はアリサと出会ってからはアリサの絵しか描いていない。アリサの美しさを後世に残したくて描き続けているうちにこんな量になってしまったのだ」
ハハ……私の顔を後世に残すって……ダイアモンド王国の末代までの恥になるからやめてちょうだい。
それよりブランやゼランの人物画を残す方が王家の宝になるって。
「こんなアリサの絵ばかり描いている私は気持ち悪いだろうか?」
恐る恐るブランが私に尋ねてくる。
気持ち悪いと言えばそうかもしれないけどそれよりブランの絵の才能の方を褒めるべきよね。
この才能は天才と言ってもいいぐらいだもん。
「気持ち悪くはないですよ、ブラン様。それより私以外の絵を描いてそれを私に見せてくれたら嬉しいです」
ここで気持ち悪いから絵を描くなと言うとこの天才の才能を闇に葬ることになってしまう。
それはあまりに勿体ない。ならば発揮する才能の力を別に向けてあげればいい。
「アリサ以外の絵を描くのは気が進まないがアリサが私の絵を見て喜ぶ姿を見るのは楽しみだから他の物も描いてみるか」
「ええ、そうしてください、ブラン様。ブラン様の描いた絵が完成したら見せてくださいね」
ニコリと私が微笑むとブランの表情も明るさを取り戻す。
「分かった。これからはアリサ以外も描くことにする」
ふう、とりあえずこれでこれ以上私の人物画がこの寝室に増えることがなくなって良かったわ。
ん? あれは何かしら?
私はたくさんの絵の中で布が被せられている絵を見つけた。
その絵に近付くとブランの焦る声が寝室に響く。
「ま、待て! アリサ、そ、それは!」
私が布を素早く取るとその絵はなんと私がお風呂に入ってる絵だ。
「ブラン様。こちらの絵はどうやって描いたのですか?」
まさか私のお風呂を覗いて描いたんじゃないでしょうね!
そんなことしてたら張り倒すわよ!
わざと笑顔で尋ねる私を見てブランは蒼ざめる。
「こ、これは、実際に見たわけじゃなくて、わ、私が、妄想して描いたもので……」
「そうでしたか。ではこの絵は私が没収しますので二度とこのような絵は描かないでくださいね、ブラン様。もし描いたら婚約を解消しますよ」
「…っ! わ、分かった! 二度と描かないと誓うから婚約を解消しないでくれ!」
私の脅しにブランが悲鳴に近い声を上げる。
そこへ寝室の扉が開きゼランが部屋に入ってきた。
「何を騒いでいるんだ、ブラン……え! な、なぜ、アリサがここに!?」
私がいたことに驚いたゼランは手に持っていた何かを慌てて自分の後ろに隠す。
ん? ゼランが隠した物って何かしら?
気になるわね。




