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第256話 私を賞金首にしないでください

「お前は! 銀の悪魔か!?」


 タイガーは目を瞠り驚きの声を上げる。


 サタンってマフィアのボスも知っているくらい有名人なのね。

 まあ、そうよね。サタンがこの国いるってことが三大国への抑止力のひとつになってることだって言ってたし。

 サタンのサインをもらっておいたら将来高値で売れるかしら。


 思わずそんなことを考えてしまった私に今度はブランの声が聞こえる。


「サタン! お前はアリサといたのか?」


「……はい……」


「だが店の前にはお前の姿はなかった気がしたが……」


「……店の裏で待機してましたがアリサ様の笛の音が聞こえたので店内に入りました……」


 え? 笛の音が聞こえたって言った?

 あの笛って何の音も出なかった気がするけど。


「サタン。あの笛って音が出なかったわよ?」


「……あれが聞こえるのは私と犬ぐらいです……」


 え! 犬に聞こえるってまさかの犬笛なの!?

 犬笛が聞こえるサタンって悪魔じゃなくてもしかして犬?


 そう思うと目の前のサタンの頭に犬の耳とお尻に尻尾があるように見えてくる。


 サタンが犬だったらきっと猛犬よね。

 猛犬注意って首席総務事務室の扉に札を張った方がいいかしら。


 驚愕の事実に驚きながら真剣に札を張るべきか悩む私だが今はそれどころではなかったことに気付く。


 サタンに犬笛が聞こえるのには驚いたけど今はブランたちとタイガーに今回のことを説明しないとだったわ。

 猛犬注意の札を張るかどうかの場合じゃなかったわね。


「ブラン様。剣を収めてください。今回のことにはちゃんとした理由があるんです。私の話を聞いてください。タイガー様にも説明するのでその熊男……じゃない、部下の人に剣を収めるように命令してください」


 私が凛とした声で告げるとブランとタイガーは私の顔を見た。


「分かった。おい、剣を収めろ」


 タイガーが部下の熊男に命令すると熊男は剣を引いた。

 その様子を確認してブランも剣を鞘にしまった。


 ふう、とりあえず流血事件にならなくて良かったわ。

 人が死に過ぎるとこの物語がR15指定とかになるからなるべくそれは避けないと。


 元日本のヒラ公務員としては健全なる物語を心掛けなければならない。

 もっとも何を健全だと思うかは個人の自由だが。


 二人が剣を収めたのでサタンも剣を収めた。


「とりあえずこちらのソファにブラン様もゼラン様もタイガー様も座ってください」


 私が指示すると三人がソファに座ったので私も同じくソファに座り今回の件についての説明を始めた。

 タイガーには私がこの国の首席総務事務官でありブランの婚約者でもあること。


 そしてブランたちにはクリスとデリアの関係からロゼッタの離婚の件に関わることになったこと。

 今回はそのためにこのお店でタイガーと知り合って今夜ハニー男爵に会わせてもらうことになっていたことなどを全て話した。


 三人は私が話し終わるまで黙って私の話を聞いていてくれた。


「リサ…というかアリサの話は分かった。これからはアリサと呼んでいいか?」


「はい。タイガー様」


「俺のことはタイガーと呼んでいい。リサの時から気に入ってはいたが理由はどうあれ女の身でマフィアのボスである俺と対等にやり合おうとするその度胸がさらに気に入ったからな」


 まあ、これぐらいの度胸がないとこの物語の主人公はできないからね。

 私だってできるならか弱い美少女役で登場したかったわよ。

 でも私がか弱い美少女に異世界転生したら美紀にあんたのキャラじゃないって爆笑されるに違いないわ。

 良かったわ。異世界転生じゃなくて異世界転移もので。


「では遠慮なくタイガーと呼ばせていただきます」


「ああ」


 タイガーは私に笑顔を見せる。

 どうやら本当に私のことを認めてくれたようだ。


「だからと言ってアリサは私の婚約者だ。気に入ったと言ってもアリサはお前にやらんからな」


 ブランが心臓も凍るような冷たく低い声でタイガーを牽制する。


 そうだった。こっちの二人の機嫌も取っておかないと私の命が危ないわよね。


 私はお得意の窓口スマイルでブランとゼランのご機嫌を取る作戦に出た。


「私がブラン様と婚約破棄したい訳じゃないことは分かっていただけましたよね?」


「ああ。それは理解したが女ひとりでこんな危ないことをすることには私は反対だ」


「申し訳ありません。今度からは何か行動する時はブラン様とゼラン様に相談しますので今回は許していただけませんか?」


 私が頭を下げて謝るとブランもゼランも「仕方ないな」という表情になる。

 だがそれでもブランは疑わしそうな視線を私に向けた。


「本当に私たちに相談すると約束できるか?」


「もちろんです、ブラン様。私にはお二人以上に信頼している人間はおりませんわ。それにお二人なら私を必ず護ってくれますよね?」


『当然だ』


 ブランとゼランの声が重なる。二人の表情は柔らかいものに変化している。

 私に信頼していると言われてブランもゼランも機嫌が直ったようだ。


 ふう、なんとか乗り切ったかな。

 それにしてもよくブランとゼランは私がここにいることが分かったわね。


「でもブラン様もゼラン様も私がこの店にいることがよく分かりましたね?」


「ああ、それはアリサがいつもと違う行動した時のことを私に報告したら報告内容が重要であれば賞金を出すと事務官や使用人たちに通達しているからな」


「そうそう、それでアリサが離婚証明書を取りに来たことや王宮を抜け出していることが報告されたんだ」


 なんですって!

 それじゃあ、私の行動が全部見張られているのと同じじゃないの!

 それってある種のストーカーなんじゃないの!?


「私の行動を事務官や使用人に報告させるなんてやり過ぎではありませんか?」


「そうでもないぞ。事務官や使用人たちには良い小遣い稼ぎになると好評だ。まあ、アリサは一種の賞金首に近いかもな」


 誰が賞金首じゃい!

 勝手に人に賞金かけるんじゃないわよ!!



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