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第255話 緊急事態なので悪魔召喚します

『アリサは私の女だ!』


 怒りのオーラに包まれたブランとゼランが同時に立ち上がり同時に叫ぶ。


 ひえっ! 落ち着いてよ! 二人とも!


「ブラン様、ゼラン様、お、落ち着いてください!」


 私はなんとか二人を落ち着かせようと声をかける。

 するとタイガーがブランとゼランを胡散臭そうな目付きで見た。


「アリサだと? この女の名前はリサだ。どこかの女と間違えてんじゃねえか? 兄ちゃんたちよぉ」


「この国に黒髪に黒い瞳の女が二人といる訳ないだろうが! 彼女はこの国の王太子である私の婚約者のアリサだ!」


 ブランが被っていた茶髪のカツラを取って投げ捨てる。

 本来の黄金を思わせる金髪がサラリと空中を舞った。


 ちょっと、ブラン! こんなところで自分が王太子なんてバラしたらダメだって!

 王太子がキャバクラに来てたなんてスキャンダルになるんじゃないの!?


 この国で王太子がキャバクラ通いしていたことがバレた場合にどれぐらいのスキャンダルになるかは知らない。

 だが普通に考えれば問題になるはずだ。


 あれ、でも複数婚が認められる王族だったら女遊びしてもいいのかな?

 う~ん、その辺の感覚がイマイチ分からんわ。


 いや、違う。ここで考えなきゃいけないのはマフィアのボスの店に王太子が出入りしていたことの方かも。

 裏社会と王太子が繋がってると思われる方がスキャンダルよね!


「王太子だと……? 貴様がブラント王太子か!?」


「第二王子の私もいることを忘れるなよ!」


 タイガーが怒鳴ると今度はゼランまでもが茶髪のカツラを取って投げ捨てる。

 ゼランの美しい金髪もサラリと空中を舞う。


 ひい! ゼランまで正体バラす必要ないじゃない!

 王太子と第二王子がマフィアのボスが経営するキャバクラで騒ぎを起こすなんて週刊誌が喜んで記事にしちゃうわよ!

 この国に週刊誌があるか知らないけどさ!


 どんどん修羅場になっていく現場に私はどうしていいか分からなくなってくる。


「確かにその姿は王太子と第二王子だな。だがな、このタイガー様が王族相手にビビると思うなよ! リサは俺の女だって言ってるだろ! おい!」


「はい!タイガー様!」


 タイガーとブランたちの間に分け入ったのはタイガーの側近の熊男だ。

 熊男は腰に差していた剣を抜いた。


「ほお、私たちが王太子と第二王子と分かった上で剣を向けるか。返り討ちにしてくれるわ!」


「お前たちにアリサは渡さない!」


 ブランとゼランもスラリと剣を抜いた。


 ひえ! 修羅場で血を流すのは小説の中だけにしてよ!

 マジでケガしたらどうするの!


 異世界ファンタジーの小説でヒロインを手に入れるのに剣で斬り合う修羅場の場面は腐るほど読んだ私だが自分の目の前で血が流されるのは勘弁してほしい。


「ブラン様! ゼラン様! やめてください! タイガーも止めなさいよ!」


 私は対峙するタイガーたちとブランたちに向かって叫ぶがみんな怒りで頭に血が上っているのか私の声が聞こえないようだ。


 ちょっと! だ、誰か、この人たちを止めてよ!

 神様! 貴方が止めなさいよ!







 いや、そう言われても。







 ダメだわ。神様はあてにならないわ。

 まったく王太子や第二王子がキャバクラでマフィアと対決なんてこの国の緊急事態よ!


 私はその時緊急事態という言葉でサタンからもらった笛のことを思い出した。

 サタンは緊急事態の時にこの笛を吹いて報せろと言ったはず。


 私は自分の首に下げていた笛を手に取って思い切り吹く。


 この緊急事態をどうにかしてくれるなら神様じゃなくて悪魔を召喚してもかまわないわ!

 えい! 悪魔召喚!


 しかし思い切り吹いたにも関わらず笛の音がしない。


 え? もしかしてこの笛って壊れてるの!?

 これじゃあ、万事休すじゃない!


れ!」


 タイガーの合図で熊男がブランに斬りかかる。


「返り討ちにしてやる!」


 ブランも自分の剣で熊男に斬りかかる。


 危ない!


 私が思わず目を閉じた瞬間、ガキーンッという剣がぶつかり合う音が響く。

 しかし次に続く剣戟の音も悲鳴も聞こえない。


「……アリサ様の話を聞いてください……」


 恐る恐る目を開くとそこには熊男とブランの剣の両方を二本の剣で同時に受け止めて二人の間に立つサタンの姿があった。

 熊男もブランも突然現れたサタンに驚いて動きを止めている。


 サタン! 来てくれたのね!

 悪魔召喚がうまくいったわ!


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