第254話 これが修羅場ってやつですか
離婚証明書にロゼッタのサインが必要ないと分かったのでその日は普通に働いて夜を待った。
そしてサタンと共に王宮を出て「天国の宴」に向かう。
サタンには昨日と同じく店の外で待機してもらい私は店の裏口から控室に入った。
控室には他のキャバ嬢はいない。
「もう他の人はお店に出てるみたいね。私はタイガーが来るまで控室にいようっと」
このお店に来ているのはタイガーに会うためであってキャバ嬢として本気で働く気はない。
でもタイガーがいつ来るかは聞いてなかったわ。
今日も遅いのかな。
昨夜も遅くまでタイガーに会うためにこのお店にいて今日の昼間は総務事務省で仕事をしていたので私は寝不足気味だ。
これぐらいで寝不足になるって私も歳とったのかなあ。
日本にいた頃は夜遅くまで起きていて次の日が仕事でもへっちゃらだったんだけどな。
そこで私は気付く。
この異世界に来てから夜遊びも深夜残業もしていない事実に。
そういえばこの国の首席総務事務官として働いても深夜残業はしてないわよね。
もしかして以外と良い職場なのかも。
最初は「残業代」が無かったりしてこの国の役所もブラック職場かと思ったがスミスのような特別な職務の人を除き総務事務省で働く事務官が深夜残業しているところは見たことがない。
残業自体はあるがその日のうちに皆帰宅しているようだ。
ああ、だから私の身体も基本的に昼型になったのかも。
でもブランの婚約者として夜会に出るようになったら夜遅くまで起きていないとなのかな。
私はまだダイアモンド王国の夜会なるモノを経験していない。
なので私の中にある夜会の知識は元の世界のライトノベル程度の知識しかないのだ。
ライトノベルでは深夜まで夜会が続いていてヒロインとヒーローが素敵な出会いをするのよねえ。
まあ、私にはもうブランとゼランがいるけど。
そこへ支配人がやって来た。
「リサ。ご指名が入った。すぐに店に出てくれ」
ご指名ってタイガーが来たのかしら。
「タイガー様がいらっしゃったんですか?」
「いや、違う。初めての客だがとても羽振りのいい客でな。リサの噂を聞いてこの店にやって来たらしい。リサの指名料として前金もガッポリともらったから急いでくれ」
ちょっと待って。
タイガー以外に私を指名する人って誰よ?
疑問に思うがタイガーがいつ来るか分からないしこのお店にはキャバ嬢として雇ってもらった以上、最低限の仕事はしないといけないかもしれない。
「分かりました。すぐに行きます」
「席は中央の奥の席だ。客は二人だがくれぐれも失礼のないように頼むぞ」
「はい」
控室を出て私はお店の方に向かう。
店内を見回すと支配人の言った席に茶髪の男性が二人座っているがこちらに背を向けているので顔は見えない。
あの二人か。
面倒だけどタイガーが来るまで適当に相手しておくか。
私は二人の男性が座る席に行き挨拶をする。
「お待たせしました。ご指名いただいたリサで……ひいっ!」
挨拶をしながら二人の男性の顔を見て私は驚いて思わず声を上げてしまった。
そこにいたのは茶髪のカツラを被ったブランとゼランだったのだ。
ど、どうして、ブランとゼランがここに!?
「やあ、君がリサか。噂を聞いて会えるのを楽しみにしていたんだよ」
ブランがニコリと笑みを浮かべるが目が笑っていない。
「そうそう、私の婚約者もリサという名前でね。君によく似たとても美人な女性なんだ」
今度はゼランがニコリと笑みを浮かべるがブランと同じく目が笑っていない。
「あ、あの、その……」
凍てつく氷のような二人の視線に私は背筋がゾクリとする。
これってブランもゼランも本気で怒っているわよね。
ど、どうすればいい?
「まあ、リサとはゆっくり話がしたいからここに座って」
ブランは自分とゼランの間を指し示す。
ひえ! こんな怒り心頭の二人の間に座れと!?
だが私に拒否権はないしタイガーがハニー男爵を連れて来るまでこの店から逃げる訳にもいかない。
「し、失礼します……」
私は恐る恐る二人の間に座った。
「さて、リサ。いや、アリサ。どうしてこんな場所に君がいるんだい? 私の婚約者でありながら」
ブランが私の耳元に口を近付けて囁く。
それこそ地獄の底から響いてくるような冷たい声で。
わ~ん! めっちゃ怖いんですけど!
「それにアリサは離婚証明書の用紙をもらいに行ったそうじゃないか。もしかして私たちと婚約破棄するつもり?」
今度はゼランが反対側の耳元で囁く。
ゼランの声も冷たく聞いてるだけで心臓が凍りそうだ。
そうか! 私がこんなお店にいるだけじゃなく離婚(婚約破棄)証明書で婚約破棄しようとしてるんじゃないかと思ってこんなに怒っているのね!
私が離婚証明書をもらいに行ったことを誰がこの二人に伝えたか気になるが今はそれどころではない。
早くこの二人の誤解を解かないと私の命に関わる。
「ブラン様、ゼラン様、これには事情があって……」
命の危険を感じた私が焦ってロゼッタたちの件を話そうとした時に別の人間の声が聞こえた。
「おい! その女は俺の女だ。酒の相手には他の女を選べ」
私とブランたちが座る席に現れたのはタイガーだった。
「お前の女……だと?」
ブランの感情のない声がタイガーに問い返す。
感情を感じさせない分、さらに怖さが増す。
「そうだ。リサは俺の女だ」
ブランとゼランの鋭い視線を受けても動じることなくタイガーはそう言い切る。
その瞬間、ブランとゼランからラスボス級の怒りのオーラが立ち昇るのを私は確かに感じた。
これってもしかしなくても修羅場ってやつ!?
タイガーも余計なこと言わないでよ!
モンスター王子が暴れ出したら世界が滅亡しちゃうじゃない!!
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