第252話 ハニー男爵が見つかりました
「タイガー様どうされたんですか? 体調でも悪くなりましたか?」
私は慌てて泣き出したタイガーに声をかける。
するとタイガーは涙を自分の手で拭って私を見た。
「一人で異国に来て頑張る姉ちゃんは素晴らしいぞ。俺はリサを気に入った!」
は? もしかして私の境遇に同情して泣いてたの?
タイガーって意外と優しいところもあるのかしら。
「リサ。俺もお前を助けてやるからな。困ったことがあったら俺になんでも言っていいぞ」
タイガーの私を見つめる瞳は優しい。
それ故に先程よりイケメン度が上がっている気がする。
ブランとゼランには負けるけどタイガーもこれほどイケメンなら芸能界へのデビューを勧めたいくらいだわ。
この世界に芸能界のような世界があるかは知らないけど。
そこで私はロゼッタの旦那のことを思い出す。
私に同情しているタイガーならハニー男爵を探しているというお願いを聞いてくれるかもしれない。
「それならタイガー様に伺いたいことがあるのですが」
「おう、何でも聞いてくれ」
「実は私はある人物を探しているんです。ビート・ハニー男爵というのですがご存じないですか? このお店に来ていたと思うんですけど」
「ビート・ハニー男爵? そんな奴いたかなあ」
タイガーが首を傾げながら考え込む。
「金髪に茶の瞳で右手に火傷の痕がある人物です」
「ああ! 思い出した。この店で飲んで支払いの金が足りなくて逃げようとしたから捕まえた奴だな」
ハニー男爵は支払いを踏み倒そうとしてタイガーたちに捕まったのね。
そもそもロゼッタと子供を置いてキャバクラに行った時点でろくな奴じゃないとは思ってたけどマジでろくな奴じゃなかったようね。
でもハニー男爵が見つかったことは良かったわ。
「そのハニー男爵は今どちらにおられるのでしょうか?」
「リサはそのハニー男爵に惚れているのか?」
「は?」
私がハニー男爵に惚れているですって?
そんなわけないじゃない! 会ったことすらないわよ!
たとえハニー男爵と面識があろうともロゼッタの旦那じゃなくともキャバクラ通いする男は私の好みではない。
「違いますわ、タイガー様。ハニー男爵は私の知り合いの旦那様なんです。その知り合いから行方不明になったから探してくれないかと頼まれまして」
「ふ~ん、あの男は結婚してたのか。妻がいるのにこの店に来るなんてサイテーな奴だな。やはり殺してしまうべきか」
タイガーの口から物騒な言葉が飛び出したので私は慌てる。
サイテーの男だろうがなんだろうが殺されてしまったら大変だ。
「ちょっと待ってください! 殺すのはやり過ぎなので殺さないでください! 私の知り合いも悲しみますから」
エディと新しい恋をしているロゼッタでも自分の旦那が殺されたらさすがに悲しむだろうし。
そもそも殺人はできるだけして欲しくない。たとえこの世界が異世界であっても。
「リサがそういうなら生かしておくか」
渋々ながらタイガーは納得してくれたようだ。
「それで私はハニー男爵と会いたいんですが会わせてくれないでしょうか?」
「奴は今組織が経営している工場で働かせている。リサが望むなら会わせてやってもいいが、なんであいつに会いたいんだ?」
私はロゼッタが離婚したがっていることをタイガーに話すかどうか躊躇う。
だけどここまで私に心を許してくれているなら正直にタイガーに話した方がいいような気がした。
「実はハニー男爵の奥さんがハニー男爵と離婚したがっているんです。この国の貴族は男性が離婚を認めないと離婚できない法律になっているのでハニー男爵に離婚を認めて欲しいんです」
「ああ、なるほどな。それなら俺も賛成だ。よし、明日この店に奴を連れてくるからリサは離婚証明書の書類を用意して待っていろ」
え? 離婚証明書の書類を用意するの?
この国の離婚証明書の書類ってどんなものかしら?
でもブランとゼランと婚約する時には婚約証明書を書いたので離婚証明書も似たような書類なのかもしれない。
どこで手に入れるか分からなければジルにでも聞けば済むことだ。
どうせ総務事務省のどこかの部署にあるはずなのだから。
「分かりました。ではこちらは明日の夜までに離婚証明書を準備しておきます」
「よし、それじゃあ、俺は他の店の様子も見に行かないとだからこれで帰る」
「お気を付けて」
タイガーを営業スマイルでお店から送り出した私はすぐに控室に戻る。
明日の夜までに離婚証明書の準備をしておかなければならない。
とりあえずタイガーが話の分かる相手で良かったわ。
これでハニー男爵とロゼッタも離婚できるわね。