第251話 美少年はタイガーでした
突然現れた美少年に私は戸惑う。
しかしその美少年はそのままドカッと熊男の向かいにあるソファに腰を下ろした。
なに? もしかしてこの子供ってタイガーの身内か何かなの?
キャバクラに子供連れで来るなんて非常識ね!
そこまで考えて私は気付く。
この国では12歳で大人だという事実に。
改めてソファに座った美少年はクリスと同年代くらい。
ということは、この美少年は成人している可能性が高い。
「どうした? 俺の顔をジッと見て。俺様が格好良くて驚いているのか? まあ、俺様ほどのいい男はそうはいないから姉ちゃんの気持ちは分かるぜ」
生意気そうな子供ね。
お生憎様。イケメン度だけならブランとゼランの方が上よ。
あの二人はモンスター級のイケメンだからね。
「おい! 早くタイガー様の横に座ってお酌しないか」
熊男がその美少年の横を指差し私に向かって命令した。
「へ? タイガー様って貴方では?」
「は? 俺はタイガー様の身内だがただの側近だ。タイガー様はこちらの御方だ! そんなことも知らないのか!」
熊男がタイガーだと言ってるのは美少年のことだ。
「まさか、こんな子供がマフィアのボスなの!?」
「子供で悪かったな、姉ちゃん。俺はちゃんと成人してるぞ!」
美少年、いや、タイガーがそう怒鳴る。
いけない! ついうっかり本音が出てしまった。
ここはなんとかタイガーの機嫌を取らないと。
ロゼッタの旦那の居場所をタイガーが知っている可能性がある以上、タイガーを敵に回すのは避けた方がいい。
とりあえず、今はまだ。
「すみません! タイガー様。私は異国の者で私の国では成人の年齢が遅いからまだこの国の常識に慣れていなくて…ホホホ」
私は笑って誤魔化す。
異世界転移してこのダイアモンド王国にやって来て一年近く経とうとしていてもこの国の常識を全て理解できていないのは本当の話だ。
だってこの国も世界も異世界感が微妙過ぎて困るのよ!
こんな頭を使う異世界だったらまだ魔法とかある世界の常識の方が分かる気がするもん!
「へえ、姉ちゃんは異国の人間か。確かに黒髪に黒い瞳なんて見たこと無いしな。とりあえず隣りに座れ」
「はい。失礼します」
私はタイガーの横に座る。
「それでなんでこの国に来たんだ?」
「自分の国を出てから嵐にあって迷ってこの国に辿り着いたんです。それでも生きていかないとなのでこの国で仕事してるんです」
正確には勤めていた役所の帰り道に穴に落ちて異世界転移してこの国に来てからも公務員として働いてるんだけどさ。
「そうなのか? それじゃあ、姉ちゃんは一人でこの国で頑張ってるのか?」
「はい。助けてくれる優しい人たちもいますが」
そう答えながら私はふと思う。
もしワイン伯爵に助けられなかったら私はこのような酒場で働く人生を送っていたかもしれない。
けしてキャバ嬢の仕事を貶すわけではないが少なくとも首席総務事務官になって働くことはできなかっただろう。
それだけでも私はラッキーだった気がする。
「それでも苦労はしたんだろ?」
「確かに苦労はしてますけど…」
ブランとゼランの二人の婚約者のフリしろとか首席総務事務官になって国の改革しないととか苦労と言えば苦労かもしれない。
でもそれは私が選んだ道だ。
異世界転移したのは不可抗力かもしれないがこの国に来てから自分が生きてきた人生は自分も納得した上で選択した人生。
苦労はしているがそれを誰かのせいにするつもりはない。
まあ、しいて誰かのせいだというならこの世界の神様のせいだと思うけどさ。
私のせいですか。
「自分の選んだ道ですから今の苦労は苦労だと思っていません」
私がそう断言すると突然タイガーの金色の瞳から涙が零れた。
「ううう……」
え? なんでタイガーが泣いてるの?
お腹でも痛くなったのかしら。