第246話 悪役王妃は嫌です
「ブラントとゼラントの意見も取り入れて国の問題が落ち着くまではアリサには首席総務事務官を続けさせる」
ブラウン国王の言葉を聞いて私はブランたちと話していた内容を思い出した。
あの時、ブランたちも私にしばらくは首席総務事務官の仕事をしていてもいいって言ってたわよね。
もちろんブランたちの婚約者としての仕事も途中入ってくるだろうとは言ってたけど。
ブランたちはブラウン国王にも私が首席総務事務官として働くことを提案してくれたようだ。
私が二人のどちらを選ぶかの時間を与えてくれたことと純粋に仕事を続けることをブラウン国王が認めてくれたのは嬉しい。
そこで私はふと思う。
もし私がブランかゼランを選びこの国の王太子妃になっても首席総務事務官の仕事は続けられるのだろうか。
日本であれば夫婦共働きなど珍しくないが王太子妃が文官のような仕事をするのはこの国で認められるのか。
そもそもこの国はまだまだ女性の社会進出が活発という訳ではない。
むしろ結婚したら女性は家庭に入り子育てをするという考えが主流だったはず。
ということはやはり王太子妃になった時には首席総務事務官の仕事を辞めなければならないということになる。
う~ん、王太子妃には王太子妃としての仕事があるんだろうけど私は今の仕事にやりがいを感じてるからなあ。
できれば辞めたくないなあ。王太子妃になっても文官の仕事を続けちゃダメかしら?
「ではアリサが正式に王太子妃になった時にアリサを首席総務事務官から解任するのね? まさか王太子妃になってまでも文官の仕事をアリサにさせようなんて思っていませんわよね?」
グリーン王妃がまさに私が思っていたことを口にする。
ここでブラウン国王がどう答えるか気になり私は息を呑んで耳を澄ませた。
「無論、今までの歴史上、王太子妃もしくは王妃が文官の仕事をした例はない。だが私は正直迷っている」
迷っている?
「アリサは文官として有能だ。だが国の諸問題を解決したり改革の成果が出るには時間がかかる。全てを解決した時に王太子妃になるとしたらアリサが年齢を取り過ぎてしまう」
ハハ、それはその通りね。
23歳の今でさえこの国では行き遅れ扱いされてるもんね。
しかももう少しで24歳だし。
国の制度を変えたり改革の成果が出るのには当然時間がかかる。
一朝一夕で国の改革ができたら文官も苦労はない。
私が首席総務事務官として改革を行ってもその成果や途中で出てくる改革の諸問題を全て解決するまで働いていたら当然何十年単位の話になるだろう。
まあ、そこはこの世界にはご都合主義の神様がいるからなんとかしてくれる可能性もある。
しかし神頼みだけで国の改革を行うのも危険だ。
なぜならこの世界のご都合主義の神様は面倒くさいことはやらないと私の勘が告げているのだから。
そうでしょ? 神様!
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ほら、御覧なさい。あっさり逃げたじゃないの!
「ではどうするの? ブラウン」
「アリサには王太子妃の身分になっても国の政策に携われるような扱いができないか考えているところだ」
え? それって王太子妃しながら文官の仕事もしろってこと?
「それはいけないんじゃないかしら? 王太子妃はいずれ王妃になる。王妃になって国王の政策に口を出すなんて国が分裂するのではないの?」
グリーン王妃の渋る声が聞こえる。
確かに王妃が国王並みの発言力や権力を持ったらそれはそれでグリーン王妃の言うように国が混乱しかねない。
「分かっている。だから今思案中なのだ。まあ、どちらにせよ、しばらくはアリサには首席総務事務官とブラントの婚約者でいてもらう」
王太子妃でも文官の仕事できるなんてそんなうまい方法なんてあるのかな?
まあ、でも将来私がブランたちの妻になって王妃になったら裏で国王のブランたちに助言することはできる。
ブランたちなら私の意見を聞いてくれるだろう。
意見を聞くだけじゃなくてブランもゼランも私の言うことなら何でも取り入れて実行しちゃいそうな気がする。
ちょっと待って! そうやって国王を裏で操るって「悪役令嬢」ならぬ「悪役王妃」なんじゃない!?
悪役度が増してんじゃん!
国民に「悪役王妃」って思われるのは絶対嫌よ!
でもバレなきゃいいのかな?
「そうですか。まあ、私はアリサに世継ぎの子供を産んでもらえばそれでいいですわ」
う! その期待も重くて嫌かも。