第244話 私を好きな理由はなんですか?
「ん? アリサの好きなところか。いろいろあるがまずは…」
まずは?
私は壁に耳をくっつけてブランの言葉を待つ。
「あの夜の女神のような輝く美しい黒髪に黒曜石のように美しい黒い瞳だな。あれほどの美人は今まで見たことがない」
「それは私も同感だ。アリサは夜の女神だ」
ブランの言葉をゼランが肯定する。
意義あり!
それでいったら日本人はみんな美人になっちゃうって以前にも言ったでしょ!
別に日本人だって美人がいることは認めるけど私は間違っても「美人」に分類されたことないわよ。
黒髪に黒い瞳だけで美人設定されるこの世界ってマジでどうかした方がいいんじゃない?
それにブランやゼランのような超絶イケメンの方が太陽神のようじゃないの!
「それに王族や高位貴族が相手でも動じないあの気の強さ。その強さが魅力的なんだが私でも内心怖い時がある」
「それは私も同感だ。幼い時に母上に怒られた時とは違う別の怖さを感じる」
うっ! そこまで怖がらなくてもいいじゃない。
ブランやゼランが突拍子もないことやったりするから用心して先手攻撃するようにしてるだけなんだから。
モンスター王妃のグリーン王妃より怖いとか言われるとちょっと傷つくわ~
そういえば特殊部隊棟の合い言葉で私のことを「この国でもっとも怖い御方」とか言ってたわね。
そもそも「怖い」と思う人間を好きになったりするかなあ~
「それに文官としての能力も素晴らしい。私たちの国のことをよく考えて頑張っている姿は惚れ惚れとする」
「それも同感だな。アリサの仕事している姿はいつ見ても惚れ惚れする」
う~ん、仕事のことを褒められるのは嬉しいけれどまだ改革は始めたばかりだし。
成果が十分に出せたってほどじゃないからなあ。
それに仕事の能力を高く評価するなら別にこのまま首席総務事務官として私を雇えばいいんじゃないかな。
わざわざ私と結婚するほどの想いじゃない気がするわ。
ブランとゼランは最初に出逢った時に私に一目惚れって感じだったけどそれはやっぱり見た目が珍しい黒髪に黒い瞳だったからってだけなのかも。
そう考えると私の胸の中にモヤモヤしたものが湧き上がる。
この二人って私への恋心とか本当にあるのかしら。
私は結婚は絶対に恋愛結婚したいのだ。
夫になる者に私への恋心がないなんて認められない。
もし本当に今聞いただけの理由しかないならそんなの婚約破棄決定よ。
ダイアモンド王国の立場を考えてブランとゼランと一人二役をしてでも婚約した私だが私にも譲れない部分はある。
今現在この国の王太子と王子に婚約者が必要というならこのまま名前だけの婚約者を務めることに意義はない。
しかしダイアモンド王国が「真の平和」を獲得した時には堂々と婚約破棄を宣言する気持ちぐらいはある。
超絶イケメンをフルなんてもったいなくて涙が出そうだけどやっぱりお互いに恋をして結ばれたいもの。
それに婚約破棄はできるって言ったのはこの二人の方だしその時になって私を恨まないでよ!
「だが一番好きなところは…」
ん? 一番好きなところ?
「アリサは何があってもアリサだと思えるところかな」
「そうだな。それは私ももっともアリサを好きな理由だ」
ゼランもブランに同意する。
は? 私は何があっても私?
それがもっとも私を好きな理由ってどういう意味?
「アリサにとってここは遠い異国の地だ。本来なら自分の国でもない国や国民のことなど放っておいてもいいはずだ。それなのにアリサはこの国や民を自分の国や民のように愛してみんなの幸せを願って自分の能力を惜しみなく発揮して尽くしてくれる。アリサは異国の地にいても自国にいた時と変わらずアリサなんだと思う。どのような立場になろうがどこに住むことになろうがアリサは変わらない。そんな存在に心底私は惚れている」
「そうだな。アリサは異国の文官であっても伯爵令嬢であってもこの国の王妃になっても変わらずアリサという存在だと確信できる。立場が変わっても己を変えないでいられる人間は稀有だ。アリサはいつまでもアリサだから安心できる。そんなアリサに私も心底惚れている」
……立場が変わっても私は変わらないか。
確かにこのダイアモンド王国に異世界転移して私はヒラ公務員から伯爵令嬢になり今は首席総務事務官だ。
未来はこの国の王妃かもしれない。美紀は爆笑するでしょうけど。
大きく立場も身分も変わった。
でも私の中身は変わったかしら?
そう考えると日本で暮らしていた私と今の私が変わったようには思えない。
人は立場が変わると同じ人間かと思うぐらい態度が変わる者もいる。
でも私はたぶんブランとゼランの言うように変わらない気がする。
異世界転移してまでヒラ公務員の知識で働いて生活するぐらいだもん。
だけど本当に私はいつまでも変わらないアリサでいられるかしら?
何が起こっても自分の好きな人たちの「幸せ」を願うようなアリサでいられるかしら?
……そうね、その部分だけは変わらないでいたいわ。
この先、どんな苦難が襲ってきても好きな人たちの「幸せ」を願うことができる私でいましょう。
変わらない私をブランとゼランが「好き」と言ってくれるのはとても嬉しいわ。
だってそれって「今の私が好き」ってことだもんね。