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第242話 自力で王宮を抜け出します

 私は総務事務省に出勤をして仕事をする。

 何か特別な行動を起こす前にはいつもと同じ行動をすることが大切。


 首席事務官室ではいつもと変わらずクリスとジルが働いている。

 クリスの顔はやはりどこか暗い。


 ごめんね、クリス。

 ロゼッタの件を片付けてから貴方に全て話すから。


 私はクリスの横顔を見ながら心の中で謝る。


 そう、私はまだクリスにデリアは二股などかけていなかったとは話していなかった。

 デリアのことはクリスの誤解だと話すとロゼッタとエディのことも話さなくてはいけなくなる。


 話を聞けばクリスは「自分も協力する」と言ってくるだろう。

 クリスはワイン伯爵よりはしっかりしててもあのワイン伯爵の息子であることを示すかのように優しい子だ。


 しかしサタンの話では今回の件には下手すればマフィアが絡んでいる可能性も高い。

 この国ではクリスは大人扱いでもまだ12歳だ。


 できれば危険なことに巻き込みたくはない。

 それに12歳の子にキャバクラとかの話って早い気がするし。


 いずれいろんな経験をしてみんな「大人」になっていくのは分かるが成人したからといってすぐに何でもかんでも理解できるとは思えない。

 「経験」は大切だが物事には順番がある。焦ってはいけない。

 

 そして私は部屋の扉の近くで相変わらず無表情に私の仕事が終わるのを微動だにせず待っているサタンをチラリと見る。

 今、私の作戦決行の前に立ちはだかるのはこの「銀の悪魔」だ。


 悪魔を騙すのは神様に嘘を吐くより緊張するわね。

 ここは平常心よ、アリサ。


 住民からの苦情や業者への対応で鍛えた「平常心を保つ力」を総動員して私はその日の仕事を終える。

 総務事務省から護衛のサタンとイリナとホシツキ宮殿に戻った。


 今日はブランやゼランの夕食のお誘いもない。

 これなら余計に早く作戦を実行できそうだ。


 私は夕食を食べてイリナに声をかける。


「イリナ、今日は疲れたからもう私は休むわ。だから護衛の仕事は終わりにしていいわよ」


「はい! 姐さん! おやすみなさいませ!」


 イリナが自分の部屋に戻るのを見て私は次にサタンにも声をかけた。


「サタンも無理しない程度に見張りをしてね。私はもう寝るからさ」


「……はい……分かりました……」


 サタンは短く返事をして私の部屋の前の定位置に立つ。

 いつも通りに柱に寄りかかって仮眠しながら私の護衛をするようだ。


 私は自分の部屋に入る。


「……ここまではうまくいったわね」


 そのまま私は寝室に移動して着替えた。

 しかし私が着替えたのは夜着ではなく町娘が着る服だ。


 ワイン伯爵領でのお忍びなどで使った変装道具を私は保管していたのだ。

 茶髪のかつらも被り準備ができる。


 さて、では作戦決行よ!


 私が考えた作戦は王宮を一人で抜け出し「天国の宴」の店に潜入して調査すること。

 危険は承知の上だがサタンやエディのような立場の人間が聞き込みにいっても向こうは警戒するだけだ。


 しかしサタンは「危険」と言って私だけで「天国の宴」に行くことを認めてくれない。

 それならサタンに気付かれずに王宮を抜け出し店に行くしかないがサタンは私の傍から離れない。


 ギークにストーカーだと言われるぐらい私と一緒に行動するのだから。


 唯一、サタンが離れるのは私が自分の部屋にいる時だけ。

 だったらその時を利用するまで。


 そしてこの寝室には王宮の外に繋がっているだろう「隠し通路」がある。

 「隠し通路」は迷路だとブランは言っていたが王宮の外に繋がっていることは間違いないはず。


 だって王宮の隠し通路の元々の存在理由は有事の時の王族の脱出経路なのだから。


 通路の細かい道は分からないけどなんとかなるわよね、きっと。

 ってか、なんとかしなさいよ! 神様!






 無茶ぶりはやめてくれ






 私は自分の寝室の「隠し通路」の扉の前に立つ。

 以前サタンがして見せてくれたように扉を開けないでおくための釘を慎重に抜く。


 ここで下手に物音を立てたらサタンにバレてしまう。

 私は緊張しながら全ての釘を抜いた。


 一応、サタンに動きがないか耳を澄ませるがサタンが扉をノックしたりこの寝室に入ってくることはない。


 うまくいったわ!


 隠し通路の扉を開けると狭い暗い通路が現れる。

 ゲームに出てくるダンジョンや迷宮のようだ。


 暗闇に本物のモンスターや幽霊が潜んでいるようにも感じる。

 一瞬、ビビった私だが自分に気合いを入れなおす。


 ちょっと怖いけど女は度胸よ! アリサ!

 いざ! 出発!


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