第24話 予算要求には根拠が必要です
伯爵家に戻ると私は遅い昼食を取る。
ワイン伯爵とクリスは既に食事を終えて執務室で仕事をしているらしい。
私も食事後執務室に向かった。
「お父様。アリサです。入っていいですか?」
私は扉をノックして声をかける。
すると中からワイン伯爵の声が聞こえる。
「入っていいぞ」
「失礼します」
執務室にはワイン伯爵の他にクリス、シラー、シャルドネもいた。
そして机に書類を置いて内容を確認している最中のようだ。
「お父様。村長たちからの提出書類は全部揃いましたか?」
「ああ。皆、ちゃんと正午までに持ってきたよ。今内容を確認してるがこんなに見やすい書類は初めてだ」
ワイン伯爵は感動しているようだ。
それはそうでしょうね。以前の書類に比べたら雲泥の差でしょうよ。
「どこに何が書いてあるかがすぐに分かる。アリサは天才だな」
いいえ、それは単なる事務の基本であって私の力ではないから。
私は自分でも書類の中身を確認するがパッと見た感じでは様式通りに書かれているようだ。
これなら実績報告書を作成するのも楽でしょう。
でも大変なのは予算要求書の方である。
「お父様。予算の請求の書類はできてますか?」
「ああ。今、作成しているところだ」
「ちなみにその書類を見せてもらっていいですか?」
「かまわないよ。そこにあるから」
私はワイン伯爵が指差した書類を手に取る。
事業別に必要な予算額が書いてある。
「お父様。この予算額はどこを根拠に出した金額ですか?」
「ああ。村長たちが必要だっていう金額を足したものだよ」
「……村長たちになぜこれだけの金額が必要なのかを聞きましたか?」
「いや、聞いてはないが村長が必要と言うなら必要なお金なんだろうから……」
ワイン伯爵様。貴方のその清々しいまでの善良な心に乾杯するわ。
「お父様。予算の金額というのは根拠がないといけません」
「根拠?」
「はい。一番簡単なのは過去3年間のこの事業やって使った経費がいくらかによって計算するのです」
「過去3年間分の経費から計算するのかい?」
「そうです。3年間の経費の平均額を出してそこに幾分かの上乗せをして請求するのが当たり前です」
「そうなのかい?」
ワイン伯爵は困惑した顔をしている。
ワイン伯爵にとっては村長たちが言ってきた金額を素直に信じて書いていたのだろう。
でもそれでは村長たちが本当に必要な経費を請求しているか分からない。
そう、村長たちが全員善人だとは限らないし。
まあ、ワイン伯爵の性格では村長が伯爵を騙すことなど想像してないのだろう。
そのワイン伯爵の人の良さには好感が持てるがそれでは予算要求の戦いでは勝てない。
そう、予算要求というのは予算を担当する部署との戦いである。
そしてその部署を納得させるには客観的な根拠が必要なのだ。
「とりあえず、今回は時間もないので私も手伝います」
「おお。助かるよ、アリサ」
「ではまず過去3年間の実際にかかった経費を計算しましょう。資料倉庫から該当する書類を持ってくることからね」
「アリサ様。私がお持ちします」
そう言ってくれたのはシラーだった。
「ありがとう。シラー。ではお願いするわ。クリス、算盤を貸してくれない?」
「いいですよ」
クリスは私に算盤を渡す。
さあ、戦いはこれからよ!




