第226話 古本市に行ってみました
「イリナ。準備はできた?」
「はい! 姐さん!」
「だから「姐さん」じゃないでしょ?」
「あ、すみません! アリサ様」
「別に「様」もつけなくていいわよ」
「そういうわけにはいきません! 姐さん! あ、アリサ様!」
イリナはそこだけは譲れないという表情だ。
まあ、仕方ないか。
「分かったわ。じゃあ、その呼び方でいいから」
「はい! アリサ様!」
今日はイリナと王都に出かけて街をいろいろと見る予定だ。
特に行く場所は決まっていないがイリナは役所の休日の今日は「護衛」ではなく「友達」。
女友達の遊ぶ目的など半分はおしゃべりすることが目的だがらどこに行ってもかまわない。
「でもイリナ。ドレスを着なくて良かったの?」
「はい! この方が楽だし馬にも乗るので」
イリナはいつもの騎士服ではないが男性が着るような服装をして腰には剣を差している。
確かにイリナの言う通りに王都には馬で出かけるので私はサタンの馬に乗る予定だがイリナは自分の馬に乗る必要があるのでドレスでは乗りにくいだろう。
本当はイリナのドレス姿も見たかったけど仕方ないわね。
イリナは顔も整っているからちゃんと女の子の服装をすれば似合うと思うのに。
私もドレスとはいえ目立たないように街の女性が着るような動きやすいドレスだ。
でも普通の庶民の女性が着るようなドレスとはいえドレスが普段着になってしまった私も変わったなあ。
人間って環境に適応しちゃうのね。
最初にこの世界に来た時は自分にドレスなんて「イタイ女」だなんて思ったりしたけどさ。
「じゃあ、行きましょうか」
私とイリナとサタンは馬に乗り王宮を出発する。
もちろん私は乗馬はできないのでサタンの馬に乗せてもらっていた。
「……アリサ様……どちらへ行かれますか?……」
「う~ん、そうねえ。とりあえずどこかお店があるような場所かな」
「……ホシツキ市場ですか?……」
「ホシツキ市場じゃなくて個人のお店がある所がいいかな」
ウィンドウショッピングは女友達との定番だもんね。
「……分かりました……」
サタンが馬を走らせた時に小さな広場の側を通った。
その広場には人だかりができている。
何だろう? 何かイベントでもやってるのかな?
「サタン! ちょっと止まって!」
サタンは小さな広場の前で馬を止めた。
私はその広場に掲げられた旗を見た。
旗には「古本市本日開催!」と書いてある。
古本市? 本は貴重な物だけどここでは安く買えたりするのかな。
「アリサ様。ここが目的地ですか?」
イリナが私たちの側に自分の馬を寄せて聞いてくる。
「なんか古本を売ってるみたいだから一緒に掘り出し物の本があるか見てみない? イリナ」
「はい! アリサ様と一緒なら見てみたいです!」
「それじゃあ、サタン。ちょっと古本市を見て来るわ」
「……分かりました……私は馬を近くの馬番屋に預けてきます……」
サタンに馬から降ろしてもらって私はイリナと一緒にサタンが馬番屋から帰って来るのを広場の入り口で待った。
「イリナは古本市に来たことある?」
「いえ、ありません。本を読みたくなったら知り合いから借りたので」
「そう。意外とこういう場所に掘り出し物の本があったりするのよ」
「それは楽しみです!」
そこへサタンがやって来たので私たちは古本市の会場に入る。
売られている本を見ると値段は本によって違うがだいたい五百円前後だ。
以前、ワイン伯爵領の本屋で売ってた漫画本は一冊二千円だったもんね。
古本とはいえこれぐらいなら庶民も買えそうよね。
「イリナも好きな本があるか自由に探していいわよ」
「はい!」
イリナも興味深げに売っている本を見ている。
私もどんな本があるのかいろいろと見てみた。
ふ~ん、漫画本もあるし専門書とかもあるしどれか暇つぶしに買っていこうかな。
そう思っている私にある本の表題を目に留まる。
その本の表題は『失われた幻の大陸ジパング』と書いてあった。
失われた幻の大陸ジパング?
え? ジパングってもしかして日本のこと!?