第22話 ギャンブルには気をつけよう
朝食が終わると私とローズ夫人は町に出かけることになった。
予想はしてたけど馬車でのお出かけだ。
私は馬というものをこんなに近くで見たことはなかった。
意外と大きいのね、馬って。
私は馬自体は好きだ。
子供の頃にテレビでよく競馬中継を見ていた。
別に賭け事に興味があったわけではない。
私には大好きな競走馬がいたのだ。
子供の頃偶然見た競馬中継で私はその馬を見た。
栗毛の馬でたてがみが太陽光を反射して私にはその馬が「黄金の馬」に見えたのだ。
それからは時間がある時は競馬中継を見ていた。
おかげで私は近所の競馬好きのおじさんと競馬談義するぐらいに競走馬の名前とレースの名前を覚えてしまった。
公務員になってからは何かと忙しくて競馬中継を見ることはなくなったが……。
あの近所のおじさんは元気かな?
私が行方不明になったことは知ってるかしら。
おじさん、アリサは異世界で頑張ってるから心配しないでね。
私はそう思いながら馬車に乗り込む。
馬車はカタコトと動き出す。
でも競馬とか競輪とか競艇の売り上げは国に入るんじゃなかったっけ?
公営競技ってやつよね、確か。
この世界には競輪とか競艇はありえないけど競馬ぐらいなら出来そうよね。
でもギャンブル依存症もあるし、一概に競馬を開催して売り上げを伯爵家の収入にするのはよく考えないとだわね。
私と競馬談義するおじさんは優しかったけどギャンブル好きで競馬にかなりのお金を使って家族に見捨てられたらしい。
きっとおじさんも一種のギャンブル依存症だったのかもしれない。
それにカジノの誘致の問題で揉めていた自治体もあったしね。
自治体にとってはいい財源だけどこういうものはよくよく考えないといけない問題だわ。
馬車は伯爵家を出て町中を通って行く。
町は真ん中に大きな道があって周囲に家やお店らしき建物が建っている。
「アリサ。まずはドレスを作りましょうか」
「はい。お母様」
私はドレスと言っても正直あまり興味はないがローズ夫人のお古ではやっぱりウエストがキツイ。
やはり自分用のドレスは必要だろう。
それに経済というものはお金が動くことによって活性化するものだし。
伯爵家の年収が気になるところだが、今度お父様に聞いてみようかしら。
さすがに見るからに貴族夫人のローズ夫人が伯爵家のお金のやりくりをしているとは思えない。
失礼な話だが。
「さあ、着いたわよ」
馬車が止まり私とローズ夫人は馬車を降りるとそこには周囲よりも立派な建物のお店があった。
どうやらここがドレスを売っている所らしい。
私とローズ夫人がお店に入ると店員と思われる男性が声をかけてくる。
「これはワイン伯爵夫人様。ようこそいらっしゃいました」
「今日は娘のアリサのドレスを作りに来たの。支配人はいらっしゃるかしら」
「今、呼んで来ます」
そう言ってその男性は奥の部屋に消えた。
私はお店の中を見たが綺麗なドレスが飾ってある。
おそらくそれらは既製品のドレスなのだろう。
ローズ夫人は「ドレスを作る」と言ったからオーダーメイドってことね。
やがてお店の奥から初老の男性が出て来た。
「伯爵夫人様。お久しぶりでございます」
「こんにちは。支配人さん。今日は娘のアリサのドレスを作りに来たの」
「娘さんですか?」
「ええ、そうよ。数日前に我が家の家族になったアリサよ」
「初めまして。アリサ・ホシツキ・ロゼ・ワインです」
うう、この名前にはなかなか慣れないわね。
「そうでしたか。私はこの店の支配人のホースと申します」
さっき競馬のこと考えてたからお馬さんが出て来たのかしら。
「ではまず採寸をいたしましょう。お前たち、お嬢様を採寸部屋にご案内を」
「はい」
ここで三人の女性の店員が出て来た。
そして私は採寸部屋で採寸してもらったが自分でも涙が出るくらいに貧相なスリーサイズだったわ。
いくつかって? 言うわけないでしょ!!
それにしてもウエストだけ数字が前より大きくなってるなんてあり!?
この世界に来てイチゴ大福食べてないのに!!
「では次は生地を選びましょう」
「そうね。アリサは何色が好き?」
「好きな色は青ですけど……」
「じゃあ、一着は青色にしましょう」
え? そんなに何着も作るの?
あ、でも着まわして着るにしても3着ぐらいは必要だもんね。
それから生地やデザインを選び、それに合わせる靴や髪飾りなども買ってもらった。
う~ん、今日のお金はワイン伯爵の仕事を手伝うことでチャラにしてもらおう。




