第219話 悪魔が眠れる国を作りましょう
「あ、でもそれならワイン伯爵家にも協力してもらわないといけませんよね?」
「無論だ。ワイン伯爵には私の名前で手紙を書いて送った。この国の存亡に関わることだから協力して欲しいとな」
いや、王太子のブランから「協力して欲しい」って言われたらそれはお願いレベルじゃなくて「絶対命令」レベルよね。
ワイン伯爵が断れるわけないじゃない。
しかも「国の存亡に関わる」なんて言ったらワイン伯爵が胃が痛くならないか心配だわ。
人の良さだけは右に出る者はいないワイン伯爵がブランの申し出を断るなどありえない。
むしろ「国の存亡」なんて国家機密に関わって心労で倒れないか心配してしまう。
「だからこの件はここにいる私たちと父上であるブラウン国王とワイン伯爵家の者だけの秘密とする」
「グリーン王妃様にも秘密ですか?」
「母上に話すと話が余計にややこしくなる可能性があるからな。母上には婚約はしたが結婚はこの国の安定が確保されてからにすると報告しておく」
ブランは溜息をついた。
まあ、確かにグリーン王妃は私がブランと婚約したらすぐに結婚させそうよね。
それにブランの婚約者だからってことでようやく始めたこの国の改革を途中で投げ出すのも私としてはやりたくない。
首席総務事務官は大変な仕事ではあるが今の私にはやりがいのある仕事だ。
「じゃあ、私は今まで通りに首席総務事務官としての仕事をすればいいのですね?」
「ああ、それでかまわない。時々は私の婚約者としての仕事も入るとは思うが基本的にはアリサは今の仕事をしていていいよ。アリサもそれを望むだろ?」
ブランにそう言われて私は頷いた。
「はい。それを望みます」
ブランとゼランは強引な手段に出ることはあるが基本的には私の希望を聞いてくれる。
だから余計にこの二人のことは嫌いになれないしこの二人がいずれ治めるこのダイアモンド王国のためにも頑張りたいと思ってしまう。
「そういうことで弟のクリスにはアリサから話しておいてくれるかい?」
「分かりました。クリスには私から話しておきます」
クリスには私とクリスの誕生日パーティーの準備の話もしないとだからその時にでも話をしよう。
食事を再開して食事が終わると私はホシツキ宮殿へと戻る。
宮殿へと戻ると部屋に入る前に珍しくサタンに声をかけられた。
「……アリサ様……」
「なに? サタン」
「……アリサ様はブラント王太子と婚約されるんですか?……」
「そうね」
一瞬、サタンの銀の瞳が揺らいだように見えた。
「でもあの時にブランも言ってたように表向きな話よ。まだ私は誰と結婚するか決めてないもの。ブランと婚約しても婚約破棄だってありえるわ」
「……そうですか……」
「それがどうかしたの?」
「……いえ……何でもありません……」
「そう。でも一応ブランと婚約したらまたパープル殿下に恨まれそうね。命を狙われるかもしれないわ」
パープル殿下はブランやゼランの命も狙っていた過去があるから私も命を狙われる可能性はある。
う~ん、実際に命を狙われるって可能性はあってもあんまり実感はないけどね。
それは私が日本という国に産まれたせいかもしれない。
命と隣り合わせの危機に瀕した生活を送っていたわけではないし。
「……アリサ様は……」
「ん?」
「……私が守ります……」
「ありがとう。サタン。あなたのおかげで安心して毎日寝れるわ」
私は素直にサタンにお礼を言った。
「……アリサ様が安心して眠れるようにいたします……」
サタンはそう言って部屋の前のいつもの定位置に立った。
本当はサタンにはゆっくり眠ってもらいたいのよね。
でもサタンはけっこう頑固なところがあるし。
ああ、でもこの国が真の平和な国になったらサタンも安心して眠れるかもね。
サタンが眠れる国を作るためにも頑張らないと。
「おやすみなさい。サタン」
「……おやすみなさいませ……アリサ様……」
私は部屋に入って寝る準備をした。
それにしても一人二役をやれとはね。
ブランたちもぶっ飛んだこと考えたわね。
でもやるしかないか。
私はそう思いながら就寝した。
次の日、約束通りにギークと待ち合わせをして学校へと向かうために馬車に乗った。
各首席事務官は専用の馬車を持っているが今回はギークの馬車に私は乗せてもらった。
「ねえ、ギーク。今日行く「学校」はギークが卒業した学校なの?」
「ああ、そうだよ。まだ知り合いの先生たちがいるからね。視察の話をしたら協力してくれるって言ってくれてさ」
「そうなのね」
ギークの母校か。
なんか少し楽しみだわ。
ギークの子供の頃の話も聞けるかもしれないわね。
まあ、子供の頃と言ってもギークはまだ10代だから学校を卒業してからそれほど年数が経っているわけではないけど。
そういえばギークって子供の頃からいろんな才能を発揮してたとか言ってたような。
とりあえずまずはこのダイアモンド王国の「学校」で教えている勉学のレベルを知らないとね。