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第216話 天使の微笑みですか

「ギーク。お願いがあるんだけど」


「お願い?」


「そう。実はね。今度「職業専門学校」というものを設立しようと思うんだけどね……」


 私は「職業専門学校」についての概要を簡単に話した。


「へえ、なかなか面白そうな話だね。確かにそこへ通えば必要な職業の知識や技術が身に着くならみんなも行きたがるんじゃないかな」


「そうでしょ?それにそう言った知識や技術があれば男性だけじゃなく女性も働く職場が増えると思うのよね」


「そうだね。そうすれば女性も十分に「労働力」として期待できるよ」


 ギークは私の言葉に同意してくれる。


「それでロッド様に相談したらその「職業専門学校」で何を教えるかを決めるためにこの国の「学校」や「大学」を視察したらって勧められたのよ。だからまず学校に視察に行きたいんだけどギークに学校を案内してもらえないかなって思って」


「僕に学校を案内しろってこと?」


「学校に実際に通った人物からの素直な意見を聞きたいの。でも私に物怖じせずに意見が言える文官って少ないじゃない?ギークなら平気で私にズバスバものを言ってくれるし」


「それって僕を貶してる?」


「違うわよ。私の周囲では「貴重な存在」って言ってるだけ」


 自分が首席事務官というある意味「権力のある立場」になっていかに私の意見に対して率直な意見を言ってくれる人物が貴重な存在かということを私は再確認した。


 なかなか自分より立場の上の人間の言葉を否定したりその人に自分の率直な意見を言うのは難しいものだ。

 誰だって上司に下手に反発するよりも黙って従って上司への印象を良くしたいと思うのは普通のことだもんね。


「まあ、アリサの頼みなら別にかまわないさ。いつ行くの?」


「なるべく早くがいいのよね。明日とかにでも」


「分かったよ。仕事の都合をつけて付き合ってあげるよ」


「ありがとう! ギーク」


 私はお礼を言ってギークと別れて総務事務省へと向かう。


 これで案内人は確保できたし視察に行くために仕事の調整をしないとね。

 この国の「学校」でどんなことを教えてるのか興味深いから楽しみだわ。


「姐さん。この国の「学校」に視察に行くんですか?」


「そうよ。イリナ。イリナのサファイヤ王国も「学校」ってあるの?」


「はい。あります。ただみんながみんな通えるわけじゃないですけど」


 そうか。サファイヤ王国も「義務教育」ってわけじゃないのね。


「イリナはサファイヤ王国の「学校」に行ったの?」


「あ、私は知り合いの人に教わりました。父のせいで「学校」に行ける立場じゃなかったので……」


 父親のせい? イリナが「学校」に行けないほどイリナの家には経済的余裕がなかったのかな。

 まあ、それぞれ家庭の事情はあるから深くは聞かない方がいいわね。


 それにイリナは基本的な文字の読み書きとかはちゃんと身についてるから私の護衛騎士をやめてこの国で一人で働くことになっても支障はないだろうし。


 そこで私はふと同じく私を護衛しているサタンのことを考えた。


 サタンは戦場で戦っているのが最初の記憶って言ってたし、その後も戦いで生きてきたようなことを言ってたけどサタンも問題なく文字の読み書きができるわよね。

 どこで習ったんだろ?


「ねえ、サタン」


「……はい……」


「サタンは文字の読み書きとかはどこかで習ったの?」


「……私はこの剣をくれた鍛冶師の人間に教えてもらいました……」


 サタンはそう言って自分の腰にある長剣に手をやった。


「その剣をくれた鍛冶師の人がサタンに文字の読み書きを教えてくれたの?」


「……はい……剣ができるまで暇だろうから……勉強しておけと言われて……」


 暇だろうから勉強しておけって勉強を教えてくれるなんてその鍛冶師の人はいい人だったのね。


「へえ、そうなのね。その鍛冶師の人はどこに住んでるの?」


「……ルビー王国です……」


「え? この国の人じゃないの?」


「……はい……私は子供の頃はルビー王国にいたので……」


「じゃあ、サタンってルビー王国の出身なの?」


「……いえ……それは分かりません……」


 そこで私はハッと気付く。


 そうだった。サタンは孤児だったんだもんね。

 余計なこと聞いちゃったな。


「ごめんなさい、サタン。あなたが孤児だって言ってたのに無神経なこと言っちゃって」


「……いえ……お気になさらず……」


 サタンは無表情で答える。


「でもサタンもその鍛冶師の人に勉強を教えてもらえて良かったわね。その剣はその鍛冶師の人が作ってくれた剣なの?」


「……はい……その人物は有名な鍛冶師だったのでどんなに人を斬っても斬れなくならない剣を作ってくれました……」


 どんなに人を斬っても大丈夫とかってなんか怖いんですけど。

 でも戦場で生きてきたサタンには必須アイテムってことよね。


「有名な鍛冶師の人が作ったならその剣には名前とかついてるの?」


 私は有名な刀匠が作った刀とかには名前がついていたことを思い出しながら聞いてみた。


 これで「勇者の剣」とか言ったら笑えるわよねえ。


「……はい……この剣の名前は『エンジェルスマイル』です……」


「……エンジェルスマイルって言ったの?」


「……はい……そういう名前にしたと鍛冶師に言われました……」


 エンジェルスマイルって「天使の微笑み」ってこと?

 サタンが持ってるなら「天使の微笑み」じゃなくて「悪魔の微笑み」じゃないの?


 私の脳裏にサタンが戦場で「エンジェルスマイル」を持ってたくさんの人の返り血を浴びて微笑む姿が浮かんだ。

 思わず背筋がゾクリとする。


 どう考えても「天使の微笑み」じゃなくて「悪魔の微笑み」よね!?

 その鍛冶師の人が皮肉でつけたとしか思えないわ!

 う~ん、ルビー王国の人間も侮れないわね。

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