第214話 異母兄弟でした
「あの、王妃様。王妃様は王族の個人資産から納税することに反対なのでしょうか?」
私は恐る恐る聞いてみる。
「いいえ。そんなことはないわ。だってこの国がより良い国になるためには「改革」が必要でそのためにはお金が必要なことはブラウンから聞いていますからね」
「そうですか」
私はホッと胸を撫で下ろす。
とりあえずグリーン王妃に文句を言われるわけじゃないのは助かるわ。
「それに私の個人資産はほとんどないの」
「え? そうなんですか?」
「そうよ。私とブラウンは個人資産を共有しているから名義は全てブラウンの名前にしてあるの。だから納税するのはブラウンの個人資産からということになるから私にはあまり関係ないわね」
そう言ってグリーン王妃は微笑む。
へえ、ブラウン国王とグリーン王妃は個人資産まで共有してるのね。
それにしても名義が夫のブラウン国王だから自分はあまり関係ないって言いきるのもすごいわね。
でもブラウン国王が個人資産から納税したら個人資産を共有しているグリーン王妃の資産が減ることになると思うんだけど。
「でも王妃様。ブラウン国王様と個人資産を共有しているのならブラウン国王様が納税したらグリーン王妃様の個人資産も減ることになると思うんですけど」
「大丈夫よ。減った分はブラウンが節約すればいいでしょうから」
うわあ。家計が厳しくなったらまずは夫のお小遣いから減らすって考えね。
さすが「モンスター王妃」だわ。
「今回の件に関しては私よりもパープルが一番影響があるんじゃないかしら」
グリーン王妃の口からパープル殿下の名前が出て私はドキリとした。
グリーン王妃はパープル殿下の正体は知らないわよね、きっと。
ブランやゼランが話すとはなんか思えないし。
でもパープル殿下が納税することで一番影響を受けるって本当なのかな?
「パープル殿下は個人資産が多いんですか?」
「ええ、そうよ。パープルの趣味は「お金」だもの」
趣味が「お金」?
確かにそんな性格っぽいけどさ。
「だから先代国王も死ぬまで言っていたわ。「先に産まれたのがブラウンで良かった。パープルが先に産まれてたらこの国は終わりだったな」って」
その意見には賛成だけど自分の父親に見捨てられたパープル殿下もちょっと可哀想ね。
そういえばこの国での王位継承順位は年長の男子が優先されるからブラウン国王が先に産まれて良かったってことね。
でもブラウン国王とパープル殿下って兄弟だけど性格も顔立ちもだいぶ違う気がするな。
本当に兄弟なのかな?
「でもブラウンは先に産まれたけど第二正妃の子供だったからちょっとしたトラブルになりかけたのよねえ」
グリーン王妃は何かを思い出すように溜息をついた。
ん? 第二正妃?
あ! そうだ! 王族は「複数婚」ができるんだった。
「もしかしてブラウン国王様とパープル殿下はお母さまが違ったりするんですか?」
「ええ、そうよ。先代国王には三人の正妃がいたのよ。ブラウンは第二正妃の子供でパープルは第一正妃の子供だったのよ」
え? パープル殿下の母親が第一正妃ってことは本来ならパープル殿下が王位を継ぐはずだったのかな?
「パープル殿下が第一正妃様の子供なら本来ならパープル殿下が王位を継ぐということだったんですか?」
「いいえ。正妃には第一正妃、第二正妃というように順番はあるけどそれは呼び名だけのことで正妃同士に優劣はないの。だから第二正妃の子供でも先に産まれたブラウンが次の国王になるのは当たり前よ」
「でも先ほど王妃様はトラブルになりかけたっておっしゃいませんでしたか?」
「ああ、そうね。実は先代の第一正妃がブラウンは先代国王の子供ではないと主張した時があってね」
「え?」
「もちろんそんなことはないわよ。ただ先代も先々代の国王もパープルと同じ紫の瞳だったの。だから瞳の色が茶色のブラウンは国王の子供ではないと言い出したのよ」
う~ん、子供が必ずしも父親の特徴を受け継ぐとは限らないのに。
その第一正妃はきっと自分の子供のパープル殿下を王位につけたかったのね。
小説ではよくある話だわ。
「それで結局どうなったんですか?」
「先代国王が正式に「ブラウンは自分の息子である」って宣言して決着はついたわ。国王の決定に逆らうことなんかできないし。ブラウンの母方の祖父が茶色の瞳だったからそれを受け継いだだけだってことになったわ」
日本だったら最終的にはDNA検査とかで決めたかもしれないけどこの世界じゃそんなことできないもんね。
でもそんないざこざがあったならパープル殿下も王位を未だに狙ってても不思議じゃないわ。
王族の王位継承問題の陰謀なんてちょっと異世界感が増してきた感じがするけど実際に自分も巻き込まれる立場になると笑ってもいられないわ、マジで。