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第213話 案内人は誰にしましょうか

 教育文化事務省から戻った私は考えていた。


 まずは「学校」に行こうかな。

 この国は12歳で大人だからその前に学校に行くのよね。

 ってことはこの国の「学校」は年齢的には日本で言えば小学生くらいの年齢ね。

 そうすると「学校」で習う勉強は小学生レベルの内容なのかな?


 でも……。


 私は同じ首席事務官室で書類を見て仕事をしているクリスを見る。


 クリスは12歳で既に私たちに混ざって仕事してても十分やっていけてるわよね。

 そう考えるとこの国では12歳でも仕事に必要な基礎知識を身につけられるってことかな。


 あ! でもクリスは伯爵家の人間だから勉強は家庭教師に教わったって言ってたっけ。

 それならクリスはこの国の「学校」には行ってないわよね。


 私はこのダイアモンド王国では貴族の子息は「家庭教師」に勉学を習うことを思い出す。


 せっかく学校へ視察に行くなら普通に学校を卒業した人と一緒に行って何を学んだかとか率直な意見が聞きたいところよね。

 誰か私の身近な人で「学校」に通っている人っていないかな。


 私は今まで知り合った人たちの顔ぶれを思い出す。


 ブランやゼランのような王族はダメね。

 クリスは貴族だしジルも一応男爵家の人間だったわね。


 私はチラリと私の護衛として部屋にいるサタンとイリナに目を向ける。


 イリナは外国人。サタンに至っては戦場で育ったのだから論外ね。

 え? ちょっと待って。

 じゃあ、私の周囲の人ってほとんどが「貴族」ってこと?


 普段は意識はあまりしないけど各首席事務官だって貴族だし高位貴族の納税の件で知り合った人たちも皆貴族だ。

 そして忘れちゃいけないけど私も貴族。

 誰が何と言おうと美紀に爆笑されようと私も伯爵令嬢だ。


 神様だって私が伯爵令嬢って忘れてそうだもんね。





 いえ、一応覚えています






 でもそうか。

 王都で知り合った人たちってほとんどが貴族よね。

 少なくとも身近に感じる人たちって。


 私はワイン伯爵家にいた頃のことを思い出す。


 シラーやシャルドネなら「学校」を出てそうよね。

 でもあの二人はワイン伯爵領に住んでるし王都にある「学校」を出ているとは思えない。


 ワイン伯爵領まで出張するのもなあ。

 じゃあ「案内人」は諦めて一人で視察に行った方がいいのかな。

 でも実際に学校卒業した人の率直な意見を聞くって大事なことだと思うのよねえ。


「う~ん」


 私はそんなことを考えて思わず唸る。


「どうかしましたか?アリサ」


 クリスが私の唸り声を聞いて私に声をかける。


「実はロッド様に言われて「学校」の視察を考えてるんだけど「案内人」として王都にいる私の身近な人で学校卒業した人がいないかなって」


「学校を卒業した人ですか?」


「そうよ。クリスは学校には行かないで家庭教師に勉学を習ったんでしょ?」


「はい、そうです」


 クリスは私の言葉に頷く。


 やっぱりそうよね。


「ねえ、ジル」


「はい。何でしょうか?」


「ジルも王都の「学校」には通っていないわよね?」


「え? あ、はい。私は家庭教師に勉学を習いました」


 ジルも男爵とはいえ貴族だもんね。


「文官で貴族じゃなくて普通に学校に通った人はいるわよね?」


「はい、もちろんです。文官が全て貴族ではありませんし。アリサ様は学校の視察をご希望なのですか?」


「まあね。一度は視察したいから「案内人」を学校を卒業した人に頼もうかと思っているのよ」


「必要なら文官で学校を卒業した者を紹介しますが」


 ジルの言葉に私は少し考えて首を横に振る。


 ジルの言うように総務事務省の文官に案内を頼むことはできるだろう。

 でも文官にとっては私は上司。

 しかも組織のトップクラスの人間となればその案内してくれる文官が私に「学校」について率直な意見が言えるか怪しい。


 たいがいの人は自分の上司には良い所を見せたりするもんね。


「いえ。自分でもう少し考えてみるわ。ありがとう、ジル」


 私は気を遣ってくれたジルにお礼だけ言った。


 そして適当な人物が思いつかないまま私の就業時間は終わった。

 私がホシツキ宮殿に戻るとセーラが待っていた。


「アリサ様。グリーン王妃様から夕食を一緒に食べたいとの連絡が来ております」


「グリーン王妃様から?」


 ここ最近はグリーン王妃からは食事の誘いを受けていない。


 またブランとゼランとの結婚話のことかな。


 だが私にグリーン王妃の誘いを断る力はない。

 仕方ない。グリーン王妃の機嫌を損ねないぐらいに結婚話をスルーしようかな。


 私はドレスに着替えてグリーン王妃の待つ奥宮の国王宮殿に向かう。

 食堂ではグリーン王妃が待っていた。


「遅くなって申し訳ありません。グリーン王妃様」


「いいえ、大丈夫よ。私も今来たところだから」


 グリーン王妃はニコリと笑う。

 その笑みはやはり超絶イケメン王子たちを産んだだけあってとても美しい。


 グリーン王妃もブランもゼランも黙っていれば中身がモンスターなんて誰も気付かないわよね。


 私はそう思いながら自分の席に着く。

 今日もブラウン国王の姿はない。


「グリーン王妃様。ブラウン国王様はどこかへお出かけですか?」


「ええ。ちょっと会議が長引いてるらしいの。今日は定期的に開かれる「王族会議」の日でね」


 王族会議?

 新しく聞く言葉ね。


「あの不勉強で申し訳ありませんが「王族会議」というのは何でしょうか?」


「王族会議は定期的に王族の男子が集まって開かれる会議のことよ。国王であるブラウンが現在のダイアモンド王国の政治的な状況を王族に説明するの。王族はこの会議で今の国の状況を知ることになるのよ」


 へえ、そんな会議があるのね。


「今日の議題の中心は王族の個人財産からも納税の義務が発生することになったことの報告も踏まえてるから話が長引いているのかもね」


 私はその言葉に胸がドキリとした。

 グリーン王妃はその美しい緑の瞳で私を見つめる。


 もしかして今夜グリーン王妃が夕食に私を誘ったのって私に王族から納税させることへの文句が言いたかったのかな。


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