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第210話 予測が難しい敵です

「いえ、ブラン様、ゼラン様。確かにパープル殿下にはそのように言われたことは事実ですが私はまだ実害を被ってはいませんのでご安心ください」


 私は今にも剣を抜いてパープル殿下の首を取りにいかねないほどの怒りを見せている二人にニコリと笑顔を見せる。


 ここでブランやゼランが騒動を起こしたら先ほど私が考えてたように王族同士の争いが起こり国の統治どころではなくなってしまう。


 それに王太子のブランが婚約者でもない私を侮辱したからと言ってパープル殿下を処刑にでもしたらただの「暴君」の誕生だ。


 まあ、モンスター王子であることは認めるけどこの二人を本当の「モンスター」にする気はない。

 オレンジ伯爵領からの帰り道に馬車の中で「自分たちが暴走したら」という不安を抱えて寂しげに笑ったゼランの顔を私は忘れられない。


 一番自分たちの暴走を怖がってるのはブランたちなんだからここはちゃんと止めてあげないとね。


「しかしアリサにもし何かあってからでは遅いし」


「ブランの言う通りだ。アリサの身に何かあっては大変だ」


 ブランもゼランも私を心配してくれる。

 その気持ちは素直に嬉しい。


「ブラン様、ゼラン様。今回の出来事を証明するのは困難です。サタンは「証人」にはなってくれるでしょうが仮にも王族のパープル殿下を罰するにはもっと確かな証拠がないといけないのではないですか?」


 私がそう言うとブランもゼランも渋々と言った感じで頷く。


「確かにそれだけでは王族を裁くには証拠が弱い」


「そうだな。もっと客観的で決定的な証拠がないとな」


 ブランもゼランもちゃんと分かってくれているのね。

 王族が争うことがこの国のためにならないことを。


「それにこのままパープル殿下を罰して罪に問えばブラン様やゼラン様が横暴な王族として国民から見られてしまいます。ブラン様は国民の「心」が離れた「王」になりたいとお考えですか?」


「いやそんなことは望んでいない。国民が「幸せ」に暮らせる国の「王」になりたいと思っている」


「私もそんな国の「王」を支える王弟になりたい」


 ブランとゼランは私の顔を真っすぐに見つめた。

 その美しい緑の瞳に濁りは無い。


 こんなにハッキリとブランとゼランがどんな「王」になりたいかの気持ちを聞いたのは初めてかもしれないわね。

 やっぱりこの二人を「モンスター」にしちゃダメね。


「パープル殿下が今後何か仕掛けて来たら対応を考えますし私の護衛はサタンがいるのでそう簡単に私は死にませんわ」


 そう言って私はブランとゼランの顔を真っすぐに見る。


 大丈夫よ。私はこの物語の主人公ですもの。

 そう簡単には死なないはず。

 あ、でもラストシーンで主人公が死んで終わるって物語もあるわね。

 この世界の神様がどんなラストシーンを考えてるか分からないけど少なくてもラストシーンまでは死なないわよね? 神様。






 さてどうでしょうか。






 なんかとっても頼りにならない言葉を聞いたような気がするけど気のせいね。

 神様がハッピーエンドにする気がないなら自力でハッピーエンドにしてみせるわ。


「まあ、パープルがなかなか尻尾を出さないから私たちもパープルを今まで処罰できなかったしな」


 ブランは溜息をついた。


 そうね。あれだけ大きな猫を被っていたら普通は気付かないわよね。

 私も最初は気付かなかったし。

 あれ? でもそれならブランやゼランはいつからパープル殿下の正体に気付いたんだろう?


「あの、ブラン様。ブラン様たちがパープル殿下の正体に気付いたのっていつぐらいの頃の話ですか?」


 私が尋ねるとブランはチラリとサタンを見た。


 ん? サタンが何か関係あるのかな?

 そう言えばサタンはパープル殿下に嫌われているからああいう態度を自分には見せるとか言ってたわよね。


「サタンが私の護衛についてからだ」


「え? サタンが? じゃあ、そんなに昔のことではないんですか?」


「ああ、恥ずかしい話だが私やゼランもあのパープルの作られた仮面に騙されていたんだ」


「本当に恥ずかしい話だよ。あの男の正体に気付かないなんて」


 ブランやゼランもあの善良な仮面に騙されていたのか。

 でもなんでサタンが護衛になったらパープル殿下の正体が分かったんだろう。

 あ、もしかしてパープル殿下の刺客がブランたちを襲ったのかな?


「もしかしてパープル殿下からの刺客にブラン様たちが襲われたんですか?」


「いや、強いて言うならそれまで頻繁に私を狙ってきた刺客が来なくなったことで気付いたんだ」


「は? どういうことですか?」


「私を狙って刺客が来るのは子供の頃から頻繁にあったんだ。だがサタンが来てその刺客が来なくなった。最初は「銀の悪魔」に恐れをなして来なくなったのかと思ったんだが」


 そこで再びブランはサタンを見るがサタンは無表情だ。


「ある時、眠れなくて外の空気でも吸おうかと思って部屋の外に出たら三人の男が死んでいた」


「え? 死んでた?」


「そしてその場にいたサタンが私に言った。「起こしてしまってすみません」と」


 それってもしかして……。


「それで私は理解した。刺客が来なくなったのではなく全てサタンが私に分からないように始末していたことに」


 やっぱりサタンが刺客を倒していたのね。


「それでサタンに聞いてみた。この刺客たちは誰の差し金か分かるかと。その時サタンがパープルからの刺客だと言ったんだ。それでパープルの正体を知った」


 なるほど。サタンがパープル殿下に嫌われていた理由が分かるわね。

 自分が送る刺客を次々に倒されたらそりゃ嫌いになるわよね。


「サタンはなんでパープル殿下の刺客だって分かったの?」


「……ある日パープル殿下に「刺客を倒したのはお前か。復讐してやるからな」と……言われたので分かりました……」


 はあ!? サタンもパープル殿下に「復讐してやる」って言われたわけ?

 でもパープル殿下も大きな猫を被っている割には自分から正体バラすなんてちょっと抜けてるとこがある人ね。

 頭が良いのか悪いのか分からない人物だわ。


「それでブラン様もゼラン様もパープル殿下の正体を知ったんですね?」


「ああ。それからはパープルの動きには気を付けているつもりだ」


「そうなんだ。でもさっきも話したが証拠がなかなかないから処罰ができない状態で今に至るってとこかな」


 ブランとゼランは溜息をつく。

 私も思わず溜息をついた。


 パープル殿下ってつかみどころがない人物って感じね。

 ブランたちを最近まで完璧に騙していたかと思えばサタンにあっさり「自分が犯人です」って言ってしまう行動したり対策するにしても難しい相手だわ。


 予測不可能な行動をする人物ほど怖いものはない。


「とりあえずパープル殿下のことはみんなで注意するってことでいかがでしょうか?」


「そうだな。尻尾を出すまでそうするしかないだろう」


「アリサも十分に気を付けてね」


「はい。ブラン様、ゼラン様」


 私はある意味厄介な敵ができて頭が痛くなったがブランとゼランが心配しないように笑顔で返事をした。


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