第209話 本性を知ってますか
私は溜息をついた。
「どうしたんだい?アリサ。食事が進んでいないようだが体調でも悪いのか?」
ブランの声で私はハッと我を取り戻す。
いけないいけない。
今はブランたちと夕食だったわ。
「いえ、大丈夫です。ちょっと視察の疲れが出たのかもしれません。ブラン様」
私はブランたちに「大丈夫だ」というように笑顔で答える。
先ほどパープル殿下から「復讐してやる」なんて宣戦布告を受けて対応策を考えていたなんてブランやゼランには言えない。
「疲れるようだったら無理に視察について来なくてもいいよ、アリサ。ただでさえアリサは首席総務事務官として忙しいんだから」
ゼランも私を心配してくれる。
「いえ、視察にはぜひ連れて行ってください。この国の状況を直に見ることが私の仕事にも役に立ちますから」
「そうか。アリサがそう望むならそうするが」
「でも無理はしないでね、アリサ」
「はい。ブラン様、ゼラン様」
視察は確かに体力的には疲れるがこのダイアモンド王国を改革するためにも現場を知ることは不可欠だ。
直接住民と触れ合ってこそ国の問題点も見えるし解決策も浮かぶ。
「机上の空論」では何をするにも意味が無いことは私の公務員人生で学んだことだ。
それよりブランとゼランはパープル殿下の本性って知ってるのかな?
サタンはさっき「自分ぐらいしか知らない」みたいなこと言ってたけど。
ちょっと探りを入れてみようかな。
それによってはパープル殿下との戦い方が変わってくるし。
「あのブラン様、ゼラン様。キャサリン様のお父様のパープル殿下ってどういう方か教えてくれませんか?」
「パープル叔父上のことを? なぜ?」
「いえ、私も首席事務官として主要な王族の方の情報を頭に入れておいた方がいいかと思いまして。パープル殿下はブラウン国王の弟君なんですよね?」
私はあくまで仕事上知りたいのだとブランたちに聞いてみる。
ブランやゼランの答えを聞けば二人がパープル殿下の本性を知ってるかどうかが分かる。
もし本性を知ってるならブランやゼランと協力してパープル殿下の攻撃を回避できるかもしれない。
知らないならブランとゼランにパープル殿下の本性を話すのはもう少し様子をみたい。
なぜならまだ私は実害を被ってないからだ。
「復讐してやる」と脅されてもそれを聞いていたのはあの場では私とサタンとキャサリンだけ。
サタンが証人にはなってくれるだろうからブランもゼランも私の言うことを信じてくれるだろうがそれで王族同士の波風が立っても困る。
ブランやゼランは私を守るために王弟のパープル殿下と戦うことも辞さないだろう。
忘れがちではあるがブランもゼランもこの国で「権力」を握る存在だ。
それはパープル殿下も同じ。
権力者たちの争いに巻き込まれるのはどの世界でも国民だ。
王族同士が争い始めたら国を改革して「真の平和な国」を目指すことなどできなくなってしまう。
私はただ好きな人たちが平和で笑顔で暮らせる国になってほしいだけ。
それなのに私が「原因」で争いごとになってしまったら本末転倒だ。
ブランとゼランはお互いに顔を見合わせていたがブランが合図を送り給仕をしていた使用人を下がらせた。
使用人に聞かせたくない話をするのね。
ってことはパープル殿下の本性をブランやゼランが知っている可能性の方が高い。
食堂内は私とブランとゼランとサタンだけになる。
イリナは私が王子宮殿で食事する時はその時間を使ってホシツキ宮殿で自分の食事をしているからここにはいない。
「アリサ。パープルが何か仕掛けて来たのか?」
ビンゴ!
思った通りブランは真剣な表情で私に聞いてきた。
「実は先ほどパープル殿下とお会いしてなかなか個性のある方だと思いまして……」
私は控えめに表現してみる。
ブランは溜息をついた。
「アリサ。控えめに言わなくてもいい。パープルの本性を私たちは知っている」
ブランが真剣な表情でそう言った。
「そうだよ、アリサ。どうせパープルがアリサを逆恨みでもして暴言を言われたんじゃないのかい?」
ゼランも真剣な表情だ。
どうやら二人はパープル殿下の本性を知ってるみたいね。
「ブラン様とゼラン様が知っておられるならお話しますが先ほどキャサリン様とパープル殿下とブラウン国王様と出会いまして……」
私は先程の一連の出来事をブランたちに話した。
「なんだと! アリサに「復讐してやる」だと?」
ブランの瞳が険しくなって冷気を発する。
「アリサにそんな脅しを言うなんて許せないな」
ゼランの瞳もキラリと冷たく光る。
ひえ! 久しぶりに超絶イケメン王子がモンスター王子に変身したわ!