第208話 王弟殿下の登場です
現れた男性の瞳は確かにキャサリンと同じ紫の瞳だ。
キャサリンの父親ってことはブラウン国王の弟よね。
それにしてはブラウン国王と顔が似てないわね。
「パープル」
ブラウン国王がその男性の名前を呼んだ。
なるほど、紫の瞳だから名前は「パープル」か。
もうそんな名前ごときで驚く私ではない。
むしろ覚えやすいので神様に感謝すら覚えてきたくらいよ。
それは良かったです。
「それで何を揉めていたんですか?」
パープル殿下はブラウン国王に聞いた。
「キャサリンが王族の個人資産からの納税に反対だと申したのでそれについて答えていたのだ」
「そうでしたか。それは陛下に大変なご迷惑をおかけしました。キャサリンには私から注意しておきますのでお許しください」
パープル殿下がブラウン国王に頭を下げる。
私は妙な違和感を覚えた。
ブラウン国王は国王とはいえパープル殿下にとっては兄にあたる人物だ。
なんでこんな臣下のような態度を取るのだろう。
兄弟なのだからもっと打ち解けた会話でもいいのに。
それともここでは私のような第三者の目があるから身内の兄ではなく国王に対しての態度を見せているのかしら。
「でもお父様!「王族」から納税させるなんて今まではそんなことしなくても良かったのにこの女が国のお金を使い込んでるから国にお金が無くなったに違いないわ!」
はあ!? 今度は私を「公金横領」の罪にしたいわけ?
パープル殿下は私をチラリと見てからキャサリンに言う。
「そんな証拠もないことを発言するんじゃない、キャサリン。アリサ首席事務官にも失礼だよ」
「だって……」
「アリサ首席事務官殿。キャサリンが失礼なことを言って申し訳ない。どうか私に免じて許していただけませんか?」
パープル殿下はキャサリンの言葉を遮って私に謝った。
「いえ、私は怒ってなどいませんし、キャサリン様がご理解いただければそれでかまいません」
「ありがとうございます」
パープル殿下は臣下である私にも丁寧な言葉を使う。
「陛下。お疲れのところ申し訳ありませんでした。どうぞお部屋に戻ってお休みください」
「ああ。分かった。キャサリンには後でちゃんと言い聞かせるように頼むぞ。パープル」
「承知しました。陛下」
ブラウン国王はそう言って奥宮の中に姿を消した。
それを見送ったパープル殿下が私を見る。
「お前がいつも余計なことをしてくれる女か」
パープル殿下は今までの口調や態度が幻だったのではないかというくらい私を見下したように冷たい声で言った。
え? 今のって私に言ったのよね?
「あ、あの……」
「お前はブラントやゼラントをたらし込んだだけじゃ足りない女のようだな。お前のおかげで俺やキャサリンがどれだけ迷惑を被ったか分かっているのか?いつか復讐してやるからな。行くぞ、キャサリン」
そう言ってパープル殿下とキャサリンも奥宮に入って行った。
はあ!? なんなのあの二重人格みたいな王弟殿下は!?
あれって完全な脅迫よね!?
うわあ、ブラウン国王の前では猫を被っているのね。
ブラウン国王はパープル殿下の真実の姿を知らないのかな。
それにしても面と向かって「復讐してやる」なんて言われるとは思わなかったわ。
復讐も何も私は別に意地悪で「高位貴族の納税」を提案したことはない。
それにブラウン国王も言ってたが「王族の個人資産」からの納税はブラウン国王から言い出したことなのだ。
「……大丈夫ですか?……」
護衛についていたサタンが私に声をかけてくれる。
いつもはイリナも一緒だがイリナには他に用事を頼んでいたのでこの場にはいない。
イリナがいたら「姐さんを守ります」とか言ってパープル殿下に斬りかかりかねないわね。
良かったわ。側にいるのがサタンだけで。
「私は大丈夫よ、サタン。でもパープル殿下っていつも相手によって態度変える人間なの?」
「……いえ……あの態度は他の者には見せません……私に見せるぐらいです……」
「え? サタンだけに?」
「……はい……私はパープル殿下に嫌われていたので……」
「じゃあ、みんなはパープル殿下のことをどう思ってるの?」
「……温和な性格で国王に忠実に仕える王族の一人と思われています……」
ハハ……温和で忠実な人か……それってめっちゃデカい猫被っているってことよね?
虎ぐらいの猫なんじゃないの!?
「私にあんな態度を見せたことサタンはどう思う?」
「……本気で……復讐する気かと思います……」
そうよね!? やっぱりそうよね!? あれは宣戦布告よね!?
はあ、また敵が増えたのかなあ。
この王宮ダンジョンは味方も多いけど敵も多いわよね。
ダンジョンに敵は付き物だけどさ。
私は溜息をつく。
「身の回りに気を付けないといけないわね」
「……アリサ様のことは……私が守ります……」
そうね。私の護衛は最強の「銀の悪魔」だったわ。
「ありがとう。サタン」
サタンは無表情だったが私は少し安心した自分を感じた。