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第207話 さっそく苦情がきました

 私は総務事務省に出勤する。


 今回の視察はいろいろあったけどオレンジ伯爵の不正を見つけられたのは良かったわね。

 

 そう思いながら書類を見ているとジルが声をかけてきた。


「アリサ様。「乗合馬車の運行」と「高位貴族の納税」に関する正式な文書ができましたので確認をお願いします」


「分かったわ」


 そういえば視察前にジルが正式な文書を作っておくって言ってたわね。


 私はジルから書類を受け取って内容を確認する。

 特に「高位貴族の納税」に関する文書はブラウン国王の「王族の個人資産も対象とする」という言葉が文書に反映されているかをきちんと見なければならない。

 私が決定文書を確認するときちんと私が指示した通りの内容になっている。


 ホントにジルは有能で助かるわ。


「これでいいわ、ジル。この決定文書の内容で各事務省に通達を出してちょうだい」


「承知しました」


 私はとりあえず案件が片付いたことにホッとする。

 まあ、片付いたというよりこれからこの文書を基本にして事業が開始されるのだが。


 その日の勤務時間が終わり私はホシツキ宮殿へ帰るべく歩いていた。

 すると奥宮の方から人がやって来る。

 顔を見るとそれはキャサリンだった。


「ちょっとあんた! 話があるんだけど!」


 キャサリンの顔は鬼のような形相だ。


 あれ? 私って何かまたキャサリンが怒るようなことしたっけ?


「王族からも「納税」させるって聞いたけど本当なの!?」


 ああ、その話か。

 キャサリンも個人資産はあるだろうから「納税」の対象になるだろう。

 「王族」から苦情が出ることは想定済みだ。


「はい。これからは「王族」で個人資産を持っている方からの「納税」は義務になります」


「そんなこと許されると思っているの? 私たちは「王族」なのよ!」


 王族が一般国民と違う「公人」扱いなのは事実だがその王族の中でも特別な存在である「国王」が命令したのだからこの国の法的には問題はない。


「それは承知してますが今回の「王族の個人資産」からの納税に関してはブラウン国王様からの命令なのでご不満がある場合は国王様に直接意見を言ってください」


 私はブラウン国王への説明の時にブラウン国王が「王族の個人資産の納税に関して反対する「王族」がいたら自分に直接言うように」と言われているのでそう答えた。


 まあ、真っ先に文句を言うのがキャサリンってところが想定内過ぎて笑っちゃうけど。


「っ! そんなのあんたが国王陛下を騙したに違いないわ!」


「いえ、そんなことはありません」


「嘘よ! ブランとゼランだけじゃなくて国王陛下まで騙すなんて許されると思っているの!?」


 キャサリンの怒りはヒートアップしていく一方だ。


 う~ん、私はブランもゼランも騙した覚えはないんだけどここでそんなこと言っても火に油を注ぐだけよね。

 どうしようかな。


 私がキャサリンの怒りをどうやり過ごそうか考えていると私の後ろから声が聞こえた。


「何を騒いでおる」


 振り向くとそこにはブラウン国王がいた。

 外出用の服装だったから外出から帰って来たのだろう。

 私はブラウン国王に一礼した。


「国王陛下! この女が言っている「王族」からも納税させる案件については私は反対です! どうかこの女を「王族への不敬罪」で処罰してください!」


 冷静な時のキャサリンだったらブラウン国王に意見は言えなかったかもしれないが今回の件は相当キャサリンも不満だったらしくブラウン国王に面と向かって意見をぶつけた。

 ブラウン国王はチラリと私を見た。


「キャサリンよ。その件に関しては私が国王としてアリサ首席事務官に命じたものだ。アリサ首席事務官に罪はない」


「そんな! 国王陛下はこの女に騙されているんです! きっとそうです! 私たち「王族」は「特別な存在」なんですよ? なぜ私たちが国民と同じように「納税」しなくてはならないんですか?」


 キャサリンの言葉にブラウン国王は小さく溜息をついた。


「キャサリンよ。確かに「王族」は「特別な存在」だ。だがその「特別な存在」だからこそ国民の生活を守るのは「王族の義務」なのだ。国民の生活を守るためにはお金が必要なのだ」


「それは分かっています! しかし今まで「王族」が納税しなくてもこの国は成り立ってきたではありませんか。国にお金が必要なら民からの納税額を引き上げればいいじゃないですか!」


 う~ん、キャサリンは典型的な「特別階級」の人間が持つ考えよね。

 でもキャサリンは王族に産まれてちやほやされて育ってきただろうから自分は「特別な存在」って意味を勘違いしているのかもね。


「キャサリン。国民に重税を課したら国民の心は王族から離れてしまう。最悪の場合国民はこの国を捨てて他の国に住むかもしれない。国民がいなくなればそれはもう「国」ではない。王と国民がいて国とは成り立つのだ。お前は国民が一人もいなくなっても自分はこの国の「王」だと言えるのか?」


「そ、それは……」


 キャサリンはここまできて初めてブラウン国王の言葉に怯んだ。


 そうよね、国民がいなくなった土地で「自分が王だ」って言ったってそれは滑稽なだけよね。


「何を騒いでおられるんですか?」


 そこへもう一人、今度は奥宮の方から人が現れる。

 金髪に紫の瞳の50代くらいの男性だ。


「お父様!」


 キャサリンがその男性にそう声をかけた。


 え? この人はキャサリンのお父様なの?


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