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第205話 主役だけでは成り立ちません

「私も姐さんの活躍を見たかったです!」


 ブランとゼランと一度別れてオレンジ伯爵邸の自分の部屋に戻った私はイリナから質問攻めにあっていた。


 今回はオレンジ伯爵の不正が疑われたのでオレンジ伯爵が何かを仕掛けてくるかもと思い安全のためイリナには私の部屋で荷物番と私のフリをすることを命じていたのだ。


 だがイリナは私やブランたちがオレンジ伯爵の悪事を暴いたことを誰かに聞いたらしく真相を私に聞きたくて部屋でウズウズしていたようだ。

 だから私は事件の内容をかいつまんでイリナに話した。


「別に私だけの力じゃないわよ。イリナの力も十分に役に立ったわよ」


「え? 私の力ですか? 私は姐さんみたいに悪党退治してませんが」


 イリナはキョトンとした顔になった。


「イリナ。大切なことだから覚えていてちょうだいね。どんな「仕事」や「出来事」も「主役」だけでは成り立たないの。それぞれの「役割」があるの」


「役割ですか?」


「そうよ。私は今回は「悪党退治」の「主役」だったかもしれないけど、私だけで「悪党退治」ができたわけではないわ。ブランたちがオレンジ伯爵を捕まえてくれたし、サタンは証拠探しを手伝ってくれた。そしてイリナは私の「身代わり」という大事な役割をしてくれたわ」


「身代わりは大事な役割ですか?」


 訝し気に私を見るイリナに私はわざと真剣な表情で言う。


「では聞くけどイリナはなぜ私の側にいるの?」


「え? それは姐さんの護衛騎士として姐さんを守るために……あっ!」


 イリナは自分の言葉で気付いたようだ。


「そうでしょ?主人の私が危険な目に合わないように身代わりになることはサタンにはできないわ。同じ女性のイリナにしかできない役割よ。それに今回は何もなかったけどイリナは私の代わりに命を狙われることもあるかもしれない。それでもイリナは私の「身代わり」をしてくれるんでしょ?」


「もちろんです! 姐さん! 姐さんの身代わりになって命を落としても姐さんが無事なら私はかまいません!」


 イリナは興奮したように私に話す。


 まあ、イリナに危ない「身代わり」は頼まないけどさ。

 命はひとつだけ。

 それは大切にしなければならない。


 それにイリナに言ったことは嘘ではない。

 物語というのは「主役」が活躍するだけでは成り立たない。

 主役を支えるイリナたちのような「脇役」がいて物語は成り立つのだ。


 そうよね? 神様。





 そのとおりです。





「とりあえずこれから王宮に帰る準備をするわよ。イリナも手伝ってちょうだい」


「はい。姐さん!」


 イリナの機嫌は直ったようだ。

 たいした荷物は持って来なかったが帰りの準備をして私はブラント王太子の姿をしたゼランと一緒に馬車に乗り王都を目指した。


「今回はオレンジ伯爵の不正が明らかになって良かったですね。ゼラン様」


「そうだな。アリサのおかげだよ。視察を重ねながら領主貴族たちの動向は見張ってるつもりでもなかなか全てに目がいかない」


「それは仕方ないですよ。大きな国も小さな国も悪事をしない人間はいませんから」


 人間がみんな善良な者なら犯罪は起こらないし警察だっていらない。

 でも人間が集団で生活する限り悪事を働く者はいる。


 その理由は様々で情状酌量の余地があったとしても「罪」は「罪」。

 犯罪を犯していい「理由」にはならない。


「それでも上に立つ者が悪事を働けば巻き込まれる民がいる。それは私やブランも同じだ」


「ゼラン様やブラン様は国民やこの国のことを考えて行動されてるじゃないですか」


 初めて出会った時は「モンスター王子」なんて思ったけど二人が基本的にはこの国を良くしようと努力しているのは知っている。

 この二人がこの国のためにならないことをするとは思えない。


「だからこそだよ。私やブランはこの国で「権力」を持っている人間だ。自分が「正しい」と思ったことが果たして本当に「正しい判断」なのかを指摘してくれる人間は少ない」


「それは……」


 ゼランの言うようにゼランたちが「正しい」と思ってやったことが周囲から見ておかしなことでもゼランたちに意見が言える人間は少ないだろう。

 横暴な「権力者」のために滅びた国がたくさん存在したのは事実だ。


「大丈夫ですよ。ゼラン様たちが暴走した時は私が止めてあげます」


 私はニコリとゼランに笑顔で答える。


 そう。このモンスター王子たちが本当の「モンスター」になってしまった時は私が全力で止めてあげよう。


「ありがとう、アリサ。アリサならそう言うと思ったよ。だから私やブランはアリサに惹かれるのかもしれない」


 ゼランの笑顔はどこか寂し気だった。

 権力者が持つ「孤独」と「苦悩」を私は感じた。


「任せてください。ゼラン様。お二人は自分の信じる道を歩いてください。道から外れそうになったら手を引っ張って元の道に戻してあげますから」


「フフ、アリサに言われると「大丈夫だ」と思えるから不思議だな」


 馬車は王都を駆け抜け王宮に戻った。


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