第204話 罪に応じた刑罰にしてください
「アリサがお願い? 私と結婚して欲しいということか?それなら喜んで」
「違うだろ、ブラン。アリサは私と結婚して欲しいのさ。ねえ、アリサ」
いや、この場の流れでなんで結婚話になるのよ。
ブランとゼランはニコニコしながら私を見ている。
そんな期待された目で見てもまだ私はどちらか選んでないって。
「いえ、その話ではなくこのダイアモンド王国の「犯罪者」に関する「刑罰」についてですわ」
「刑罰?」
「はい。この国ではどんな罪でも「犯罪者認定」を受けると基本的には「死刑」ですよね?」
「ああ、そうだな。特別な事情がない限りそれが普通だ」
そうね。ダイアモンド王国の法律書にも但し書きの「国王及び国王代理人又は領主貴族が特別に認めた場合は死刑以外の刑罰に処することができる」という部分はあるけど基本的には「犯罪を犯して犯罪者の認定を受けた者は死刑とする」と明記されているもんね。
ワイン伯爵領ではこの但し書きの部分を使って罪の比較的軽い囚人たちを「死刑」以外の「刑罰」にする改革を行った。
しかしそれはあくまでワイン伯爵領内での話。
ワイン伯爵領以外の領地ではこうやっている間にも軽い罪でも犯罪者認定を受けた者は「死刑」にされている。
まずはそれを止めさせないといけない。
そして時間を稼いでいる間に罪に応じた「刑罰」を考えてそれを「国王」に認めさせれば法律を変えることなく「犯罪者はみんな死刑」ということは避けられる。
法律を変えるのはそう簡単なことではない。
だが幸いにもこの「刑罰に関する法律」は但し書きの部分を使えば「死刑」を他の「刑罰」に変えられる。
「犯した罪にもいろんな罪があると思うんです。「殺人」を犯した者と「窃盗」を犯した者がいたとしてこの二人が同じく「死刑」にされるのはいかがなものかと」
ブランとゼランは顔を見合わせる。
「それは……まあ、確かにそうかもしれないが「法律」でそうなっているしな。私たちに「法律」を変えろというのか?」
「いいえ、ブラン様。法律を変えることはありません。この法律は但し書きの部分に「国王及び国王代理人又は領主貴族が特別に認めた場合は死刑以外の刑罰に処することができる」とあります」
「そういえばそうだな」
「なので罪に応じた「刑罰」を考えて「国王」様が認めれば法律を変えることなく重罪以外の者の刑罰を軽くすることができます」
「確かにそれは可能だろうな」
「そこでブラン様とゼラン様のお力をお借りしたいのです」
私はニコリと二人に笑顔を見せる。
「私たちに何をせよと?」
「罪に応じた「刑罰」の原案作りと国王様がその案を認めてくれるまでの間、各領主貴族に犯罪者を「死刑」にするのを一時的に止めるように命令して欲しいのです。お願いします。ブラン様、ゼラン様」
私はそう言って二人に頭を下げた。
私はなるべくならブランやゼランの権力に頼ることはしたくはないがこうしている間にも国内のどこかでは「死刑」が執行されているだろう。
そしてそれを一時的に止められる「権力」をブランたちが持っているのは事実。
人の命に関わることだ。
「死刑」にされてしまったらその人の命が蘇ることはない。
それならここはブランたちに頭を下げてでもお願いすることだろう。
「頭を上げてくれ、アリサ。アリサの言い分は理解した。確かに「殺人」の罪と「窃盗」の罪が同じ「死刑」という刑罰なのは私も疑問に思う」
「そうだな。ブランの言う通りだ。私もその件に関しては疑問に思うところはある」
私は頭を上げてブランとゼランを見た。
「ブラン様、ゼラン様。私の願いを聞いていただけますか?」
「ああ、王宮に戻ったら王太子命令で犯罪者認定を受けた者の「死刑」を一時的に禁止するように各領主貴族に通達する」
「ありがとうございます。ブラン様」
やったわ。これで犯罪に応じた「刑罰」を考える間に「死刑」にされてしまう人を助けられるはず。
私も早々に「刑罰」に関する案を考えないとね。
ワイン伯爵領で行った前例を基にすればなんとかなるだろう。
「いや、これぐらい何でもないさ。アリサのお願いならいつでも聞くよ」
「私もアリサのお願いなら何でも叶えるよ」
だからその「私のお願いだから」で権力行使しちゃダメなのよ!
「ブラン様、ゼラン様。私のお願いだからって何でも私の言うとおりにしちゃダメですよ」
「フフ、分かっているよ、アリサ。今回は「アリサのお願い」プラス「王太子」として判断した結果だ。これでも私はこの国の「王太子」だからね」
ブランの言葉を聞いて私は少し安心した。
ブランもちゃんと内容を理解した上で「王太子命令」を出してくれるのね。
私には甘い二人だけど以前聞いた「この国を実質的に動かしている二人の王子」というのは伊達ではなさそうね。