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ただの日本のヒラ公務員(事務職)だった私は異世界の最弱王国を立て直して最強経済大国にします  作者: 脇田朝洋


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第202話 誘導尋問はしてません

 やがてゼランたちが帰って来た。

 オレンジ伯爵をその場で捕まえても良かったのだがまずはゼランにも真相を話した方がいいだろうということで私とブランは王太子に用意された部屋で待っていた。

 ゼランが部屋にやって来たのでブランが証拠の裏帳簿を手に入れた話をゼランにした。


「そうするとオレンジ伯爵は金を懐に入れた挙句に安物の美術品を騙されて高値で買っていたのか?」


「そうなるな。そこの10万円の壺を100万円で購入したと書いてあるからな」


「どれだけオレンジ伯爵はマヌケなんだ?」


 ゼランも呆れたようだ。


「それだけではありません、ゼラン様。裏帳簿をベッドの上に置きっ放しとかオレンジ伯爵には領主貴族として危機管理に対する意識が低すぎます」


 私はそうゼランに告げる。


「確かにそれは言える。オレンジ伯爵は自分の私室には誰も入れないだろうと思い込んでいたようだがだからといってオレンジ伯爵にとって機密情報であるはずの物の管理がずさん過ぎるな」


「なるほどね。情報管理もできないなら領主貴族の素質は無しか」


 ブランの言葉にゼランも納得したように答える。


「帳簿の書き方などは完璧でしたが上に立つ者としては私も失格だと思います」


「事務仕事はできても領地の管理者としてはダメな男だったということか」


「はい。その通りです。上に立つ者は事務仕事だけが優秀でもダメなんです」


 そう何でも事務仕事をこなせるスーパー事務員が良い管理職になるとは限らない。

 管理職の資質は事務が完璧にできることだけではないのだ。


 まあ、でも今回はその完璧な裏帳簿を書いていてくれたおかげでこれ以上はない証拠を掴めたんだけどね。

 本当にオレンジ伯爵は「残念」な人物だわ。


「それとゼラン様。ブラン様からお二人の部屋から私の寝室に繋がる「隠し通路」がある話を聞いたんですが」


「な!? なぜそれを!? ブラン、なんでそのことを話したんだ!?」


 ゼランは驚いてブランを責める。


「すまん。アリサの誘導尋問に引っかかった」


 何が「誘導尋問」よ!

 自分で口を滑らせたんでしょうが!


「ブランを誘導尋問で白状させるとはやはりアリサはすごい人間だな」


 ゼランは驚きの目で私を見ている。


 だから! そういうこと言うと私が悪女みたいじゃない。

 今回のことはブランとゼランが悪いんでしょうが!


「ゼラン様。私は「誘導尋問」はしておりません。しかし真実を知った以上、この件は無視はできません」


 私は笑顔でゼランに言う。

 私の目が笑っていないことはゼランも気づいたようで怯んでいる。


「いや、あれはアリサのために……」


「なぜ隠し通路を作ったかはブラン様からお聞きしています。確かにもしもの時の脱出経路は必要だとは思いますがお二人が協力すれば私の寝室に来れる状態なのは承服しかねます」


「それは……すまなかった、アリサ」


「私もアリサに隠し通路のことを黙っていたことは申し訳なかった」


 ゼランもブランも私に謝る。


「それで確認したいんですがブラン様から隠し通路には途中に扉があってお二人が持つ鍵が無いと開かないと聞きました。もし私が緊急時にその通路を使ったら私も鍵が無いとその扉を開けないということですか?」


「いや、そんなことはない。ホシツキ宮殿側からの場合は鍵が無くとも開けられるようになっている。そうしないと非常時にアリサが逃げられないからな」


 そうブランが説明してくれる。


 なるほど。私が隠し通路を通って脱出する分には鍵が必要ないのね。

 それなら……。


 私は片手をブランとゼランに差し出す。


「それならお二人がお持ちの鍵は没収します。そうすればお二人は私の部屋には来れませんよね?」


「そ、それはそうだが……」


「しかし……」


「お二人が鍵を渡してくれないなら私はホシツキ宮殿を出て一人で暮らします」


『それだけはやめてくれ!』


 私の言葉にブランとゼランの言葉が重なった。


「それなら渡してくれますよね?」


 私の最後通牒にブランもゼランも観念して鍵を私に渡した。


 ふう、とりあえずこの件はこれでいいわね。


 ブランもゼランも肩を落としている。


 二人には忠告しておいた方がいいわね。


「ブラン様、ゼラン様。私はまだお二人のどちらと結婚するか決めていませんが夫に選ぶ方には私への秘密は作ってもらいたくありません」


「……分かった。肝に銘じておく」


「私もだ」


 ブランとゼランが私と約束してくれる。


「この件はこれ以上お二人を責めることはしません。次はオレンジ伯爵の件を片付けましょう」


「ああ、そうだな。よし伯爵を捕らえて来るように命じよう」


 ゼランは特殊部隊の人にオレンジ伯爵を捕らえて連れて来るように命令した。

 少し待っているとオレンジ伯爵が縄で拘束されて連れて来られた。


「な、何をするんだ!?」


 オレンジ伯爵は突然縄で拘束されて顔を赤くして特殊部隊の人に怒鳴っている。

 だが王太子の姿をしたゼランの前に引き出されるとゼランに向かって非難するように声を上げた。


「ブラント王太子様! これはいったいどういうことですか!?」


 どういうこと? 自分の胸に聞いてみなさいよ。


 あくまでこの場には「ブラント王太子」しかいないように見せかけるために本物のブランは再び変装をして特殊部隊の人の中に混ざっている。

 そしてゼランが「ブラント王太子」として発言する。


「オレンジ伯爵よ。そなたが道路拡張の用地買収のために使う金を着服していた件について話を聞きたいのだ」


「な、なぜそれを!?」


 オレンジ伯爵は驚いてそう答えた。


 そんな答え方したら自白したも同然じゃない。

 とことん「残念」な人ね。


「これがその証拠の「裏帳簿」です」


 私はニコリと笑みを浮かべてオレンジ伯爵に「裏帳簿」を見せた。


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