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第201話 危機管理の意識は大事です

「アリサ!見つけたのか!?」


 ブランが私のいるベッドに近付いて来た。


「あ、はい。この帳簿に「裏帳簿」って書いてあります……」


 って、なんでベッドの上に「裏帳簿」が出しっ放しなのよ!

 いくらこの部屋に入る者がいないからって危機管理の意識が低すぎない!?

 しかも裏帳簿に「裏帳簿」って題名を書いたりする!?

 あ、でもまだ本物かどうか分からないわね。


「ベッドの上にあったのか?」


「はい。ベッドの上にありました」


「……」


 ブランも呆れたように無言になる。


 そりゃそうよね。普通はこんな所に大事な裏帳簿を出しっ放しなんて考えられないわよね。

 役所でこんなことやったらめっちゃ怒られる案件よ。


 公務員は個人情報を扱うことが多いのでそれらの書類を机上に置いたまま離席しないようにと教わる。

 私も先輩職員に注意されたことがある。

 トイレに行く時もちゃんと個人情報の書いてある書類は鍵のかかる机の中や棚に戻してから行くようにと。


 毎日のように個人情報を扱っているとどうしても「個人情報を扱っている」という意識が薄れてしまうことがあるのだ。

 いわゆる「慣れ」という怖さだ。

 それは公務員に限らず民間企業でも同じだろう。


 それ故に公務員には「個人情報の取り扱い」についての研修などが頻繁に行われる。

 常に危機管理の意識を持つことが大事なのだ。


 この裏帳簿が本物だったらオレンジ伯爵には今回の不正のことだけではなく領主貴族としても資質も疑われるところだ。


「本物か確認します」


 私はそう言って裏帳簿と書かれている帳簿の中身を確認する。

 そこには国から貰った予算額と住民へ渡す金額などが書かれていてその金額は一致していない。

 それどころか誤魔化したお金で何の美術品をいくらで購入したかなどが細かく書かれている。


 これだけ完璧に帳簿が書けるのにその帳簿を机にすら隠してないなんてどれだけオレンジ伯爵は危機管理意識がないのよ!


「国からの予算を誤魔化したことが書かれていますね。美術品を購入したことも」


「本当か? 私にも見せてくれ」


「はい。どうぞ」


 私はブランに帳簿を渡す。

 ブランは帳簿に目を通して溜息をつく。


「これだけ完璧な証拠はないな」


「そうですよね。あとは高価な美術品を見つけるだけですか?」


「いや、既に「高価な美術品」は見つかった」


「え?」


 どこに高価な美術品があったんだろう?


 私は部屋を見渡す。


「この部屋のどこかですか?」


「いや、ああ、でもここにもあるって言ってもいいかな」


「どういうことですか?」


「昨日、私たちが泊まる客室に「壺」があったろう?」


 私は昨日のことを思い出す。


 そう言えばゼランが「10万円の安い壺」って言ってた壺があったわよね。


「そうですね。確か10万円の壺でしたっけ?」


「ああ。この帳簿にはあの安物の壺を100万で購入したと記録されている」


「は?」


 10万円の価値しかない壺を100万円で購入したの!?


「つまりオレンジ伯爵は国の金を不正に使い込んだ挙句に商人から偽物の美術品を高額で購入していたってことだ」


「それって美術品の価値を見抜く目もなかったってことですか?」


「そうだな。典型的な救いようのない男だな」


 そうね。ブランの言う通りだわ。

 いろんな意味でオレンジ伯爵は領主貴族失格だわ。


「こんなところに裏帳簿を無造作に置いておくとかオレンジ伯爵の領主貴族としての素質も疑います」


「ああ、私もそう思う。むしろよく今まで領主貴族をやっていたと感心するぐらいの男だ」

 

 ハハ……私も同意見よ。


「でもとりあえずこれで証拠は手に入りましたね」


「ああ。ゼランたちが帰って来たらオレンジ伯爵を不正の罪で捕らえることにしよう」


「分かりました。あ、でも急に領主貴族がいなくなったらオレンジ伯爵領の民が困りませんか?」


「大丈夫だ。次の領主貴族が決まるまで国から代理の事務官を派遣して統治する」


「そうですか。それなら安心ですね」


 そして私とブランはゼランたちの帰りを待った。


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