第200話 王宮には隠し通路があります
私たちは部屋に入る。
大きな本棚や机があったりソファも置いてある部屋だ。
特に一見しただけでは怪しい物は見当たらない。
しかしこの部屋には使用人の掃除の出入りも禁じているのかソファとかには乱雑に本やお酒の瓶が散らばっている。
ブランはオレンジ伯爵の机の引き出しを開けて中身を確認しているようだ。
う~ん、秘密の物を隠す場合って普通に机の引き出しとかじゃないわよね。
小説の中で言えば普通はこの本棚とかの本を取ると秘密のボタンか何かがあって隠し金庫みたいなのがあるのが定番よね。
私はそう思って本棚の本を取り出して見るが怪しい本もボタンも見つからない。
サタンも私を手伝ってくれるがどうやら本棚には仕掛けはないらしい。
う~ん、すると次は飾ってある絵画の裏が隠し金庫とかかな?
私は部屋に飾ってある絵画の裏を確認するが特に怪しい物はない。
「見つかったか?アリサ」
「いえ、見つかりません。ブラン様」
「じゃあ、こっちの寝室の方か?」
ブランは扉を開けて隣りの部屋に入って行く。
私もその後をついて行くとブランの言った通りにそこは寝室だ。
しかもベッドの上にも読みかけの本などが乱雑に散らばっている。
もう少し片付けなさいよね!
仮にも伯爵なんだからさ。
ブランは寝室の壁を叩いて音を聞いている。
「何をしているんですか? ブラン様」
「いや、こういう主人の寝室には敵に踏み込まれた場合の逃げ道として隠し通路があったりするからそれを確かめてるんだ」
「そうなんですか」
そういえば小説でもそんな話はよく聞くわよね。
隠し通路があってその先に高価な美術品がある部屋が存在するとかさ。
あれ?それなら王宮にも隠し通路が存在するのかな?
「ブラン様やゼラン様の部屋にも隠し通路があったりするんですか?」
「ああ、それくらいはあるさ。王宮自体が迷宮のようだが王宮にある隠し通路はさらに迷路だ。私も全部覚えるのに苦労した」
へえ、やっぱり王宮に隠し通路があるのは王道よね。
ん? ちょっと待って。もしかして……。
「もしかしてホシツキ宮殿にも隠し通路があったりしますか?」
「ああ、もちろん。アリサの様子を見るために……」
そこでブランはハッとして私を見る。
「私の様子を見るために隠し通路を作ったんですか?」
私はニコリと笑顔でブランを見るが目は笑っていない。
「い、いや! けしてアリサの生活を覗こうとしたわけじゃない!」
「そうですよね?でも主人の逃げ道のために使われるための隠し通路ならなぜ「ホシツキ宮殿の主人」の私がその存在を知らないんでしょうね?」
「ご、誤解だ!」
ブランは慌てて私に言い訳をする。
どうせ、ブランたちが私の生活を覗くために作ったのに違いない。
冗談じゃないわよ! 私のプライベートをブランやゼランに覗かれるなんて!
私の瞳に怒りの光が宿ったのを感じたのかブランは動揺している。
「本当のことを言ってください。ブラン様。正直に話していただいたら怒りませんから」
「あ、いや、本当に、そんなことは……」
「私はホシツキ宮殿を出て王宮以外で生活してもいいんですよ。そしたら今までのように頻繁にブラン様たちにお会いできないと思いますが」
「わ、分かった! それだけはやめてくれ! 本当のことを話すから!」
ブランは観念したように白状した。
「実は私やゼランの部屋からホシツキ宮殿のアリサの寝室に繋がる隠し通路はあるんだ。だがそれは本当にアリサを心配して作ったモノだ」
「どうしてそれを私に言ってくれなかったんですか?」
「それは王宮の隠し通路は一番の機密事項だから話せなかったことと実際にはアリサの寝室に続く隠し通路の途中には扉があってその扉は二つの鍵が無いと開かないようになってるんだ」
「二つの鍵?」
「ああ。一つはこれだ」
ブランが首から下げた紐の先についている小さな鍵を服の中から取り出した。
「これと同じ物をゼランも持っている。お互いがアリサに対して抜け駆けをしないようにと作った物だ」
「じゃあ、ブラン様とゼラン様のお二人の鍵が無いと私の寝室には来れないということですか?」
「そうだ。だから今までアリサの寝室に続く隠し通路を使ってアリサの様子を見に行ったことはない! 信じてくれ!」
ブランが嘘をついているようには見えない。
私のことを心配して隠し通路を作ったことに嘘はないだろう。
でも自分の寝室にブランやゼランが協力すれば来ることができるという事実は受け入れがたい。
「分かりました。この件に関してはゼラン様も含めた上で今後どうするか決めます。今はとりあえずオレンジ伯爵の不正の証拠探しが優先ですから」
「……分かった。そうしよう」
ブランは力なく肩を落とす。
そして再び隠し通路を見つけるべく壁を叩いて音を確認する作業を始める。
う~ん、寝室にもこれといって怪しい場所は無いわね。
とりあえずブランの作業が終わるまで待つか。
私は疲れたので寝室のベッドに腰掛けようとしてベッドに上に散乱している本をどかそうと一冊の本を手に取った。
その本の題名を見て私は驚愕する。
私が本だと思った物は帳簿でそこには「裏帳簿」と手書きで題名が書いてあった。
「うそ!? これって「裏帳簿」!?」
私は思わず叫んだ。