第199話 悪魔はロッククライマーです
「ブラン様。どこから探しましょうか?」
「そうだな。裏帳簿とかはおそらく自分の身近な場所に置いておきたいだろうからオレンジ伯爵の私室にある可能性が高いだろう」
「そうですね。オレンジ伯爵の私室ってどこでしょうか」
「こういう屋敷では主人の部屋は高い場所にあるのが普通だから多分三階にあるだろう」
このオレンジ伯爵の屋敷は三階建ての部分がある。
私たちはまず三階の部分に向かう。
一つ一つ部屋を確かめていくと鍵のかかった部屋があった。
「ここは鍵がかかってますね」
「そうだな。鍵をかけるということは中を見られたくないということだろうからここがオレンジ伯爵の私室かもしれないな」
ブランも扉を開けようとするが扉はびくともしない。
「どうするかな。扉を破壊するか」
ブランが物騒なことを言い出したので私は慌てて止める。
「ブラン様。それでは証拠がなかった時になぜ扉を破壊したのか正統な言い訳ができません。何か他の方法を考えましょう」
「しかし使用人に開けろと言ったところでおそらく使用人はここの鍵は持ってないだろう」
確かにもし「裏帳簿」を隠しているならここの部屋の鍵はオレンジ伯爵が自分で持って管理している可能性が高い。
「……外から……入れるかもしれません……」
サタンがそう提案する。
「外? 窓から侵入するってこと?」
「そうだな。窓が開いてたら侵入できるかもしれない」
「でもブラン様。ここは三階ですよ?窓が開いていても入れないんじゃないですか?」
「三階だから伯爵も安心して窓を開けている可能性もある。とりあえず外に回ってみよう」
確かに三階だから窓ぐらい換気のために開けてる可能性はあるけどそもそもどうやって三階まで登るのよ。
梯子でも借りるのかな。
でもそんなことしたら使用人に怪しまれるわよね。
私たちはとりあえずオレンジ伯爵の私室があると思われる建物の外側に向かった。
「さっきの部屋の位置からするとあそこが伯爵の私室だな。ん?窓が開いてるな」
ブランが見上げた方を見ると確かに窓が開いているのが見えるがバルコニーとかがあるわけではない。
窓自体はそれほど小さくないので窓に辿り着ければ中に入ることは可能だろう。
「ブラン様。梯子を借りて来ますか?」
私がブランにそう言うとブランは首を横に振る。
「いや、梯子を借りたら目立つ。サタンに行かせる」
「は?」
サタンに行かせるってどういう意味?
梯子も無いのにサタンはこの外壁を登れるの?
それとも「悪魔」だから本当に羽があって飛べるとか?
「行けるか? サタン」
「……はい……」
サタンはそう言うと外壁の石の僅かな出っ張りを利用して壁を登り始めた。
マジで!? 本当に登ってるわ!
サタンってロッククライミングもできたの!?
サタンは少しずつ三階の窓に近付く。
私はサタンが落ちてケガしないかが心配で思わず神様に祈る。
神様! この世界でイチゴ大福を見つけたら神様にもイチゴ大福を一個あげるからサタンを守って!
イチゴ大福一個とサタンの命は同じ価値しかないのか。
サタンは無事に窓へと辿り着き窓から部屋の中へと消えた。
「よし、アリサ。私たちも私室に向かうぞ」
「はい!」
良かったあ。サタンが無事で。
私とブランが再び三階の私室に入るとサタンが部屋の中から鍵を開けてくれた。
「……どうぞ……」
「ありがとう、サタン。ケガしたりしてない?」
「……はい……もっと高い場所も……登ったことあるので……」
「え? そうなの? でもあんまり無茶をしちゃダメよ。サタンにケガがあったら大変だもの」
「……私がケガしたら……悲しいですか?……」
「当たり前じゃない! サタンがケガしたり死んだりしたら私は大泣きするわよ!」
サタンの銀の瞳が僅かに揺れた気がしたが次の瞬間にはまた無表情になる。
ん? 私、なんか変なこと言ったかな。
「さあ、証拠品を探すぞ」
ブランの言葉で私は自分たちの目的を思い出した。
そうだった。証拠品を探さないと。