第195話 悪魔レベルには致命的です
イリナが部屋を出て行った後に私はサタンに声をかける。
「サタンは護衛としてついて来てね」
「……分かりました……」
サタンはいつも通りに無表情に答える。
護衛のサタンにはブランとゼランが入れ代わっていることを話した方がいいかな。
サタンは口が堅いから大丈夫よね。
そう思った時にふと私はサタンは私の護衛になる前はブランの護衛をしていたという話を思い出した。
サタンはブランとゼランの違いって分かってるのかな。
ブランやゼランは自分たちを見分けられるのは私だけと言ってたけど護衛のサタンも分からないのかな。
「ねえ、サタンはどちらがブラン様でどちらがゼラン様かの区別ってできるの?」
「……はい……右利きがゼラン様で……左利きがブラン様です……」
「は?」
右利きがゼランで左利きがブラン?
私は自分の記憶を辿るがブランもゼランも同じ右利きだったように感じる。
「ブラン様、ゼラン様。お二人は右利きではないんですか?」
私が尋ねるとブランとゼランは罰が悪そうな表情になる。
「私たちは表向きは二人とも右利きだ。だが物心つく前はブランは左利きだった」
そう話をしたのはゼランだ。
「じゃあ、ブラン様は左利きを右利きにしたのですか?」
「ああ。お互いに周囲の人間を騙すことに決めてから私は左利きを右利きにした」
「そうなんですね。私はお二人とも右利きだと思ってました」
「まあ、私が左利きだったことは今はほとんどの者は気付かない」
ブランはそう言った。
そうか、でもサタンには違いが分かるのね。
「サタンは普段からそれでお二人を見分けているのね?」
「……いえ……普段は……分かりません……」
「え? だってブラン様とゼラン様の利き腕がどちらか分かってるんでしょ?」
「……はい……ですが分かるのは……お二人が抜剣した時です……」
抜剣って剣を抜いた時ってことよね。
その時にどちらが右利きか左利きか分かるってこと?
「剣を抜く時に分かるってこと?」
「……はい……ゼラン様よりブラン様の方が……剣を抜くのが0.3秒遅れます……」
は? 0.3秒ブランの方が剣を抜くのが遅いってこと?
そんな微妙な差が分かるの!?
「なんでブラン様は0.3秒遅れるの?」
「……それは……利き腕ではない腕で……剣を抜くからです……」
なるほど。ブランは元々は左利きだから左に差している剣を抜く時に利き腕ではない右腕を使うからゼランより僅かに遅れるってことか。
でも0.3秒遅れるなんて気付く人間っているのかな?
それにそれぐらいなら誤差の範囲じゃないの?
「サタン以外にそのことを気付く人はいるの?」
「……ご本人たち以外は……気付かないかと……」
「それに0.3秒くらいじゃ影響はないわよね?」
「……いえ……襲撃者の剣の腕が私と同程度なら……0.1秒遅れれば殺されます……」
私はサタンの言葉に思わずギョッとした。
0.1秒遅れただけで殺されちゃうの!?
「サタンの言うとおりだ。実力差があれば0.3秒の差は関係ないがサタンレベルの者が相手なら0.3秒の遅れは命取りになる」
そう言ったのはゼランだ。
「そうなんですか? ゼラン様」
「ああ。だから私がブランの代わりになる理由の一つがブランより抜剣が速いことなんだ」
そこまで計算してゼランはブランの身代わりになってるのか。
でもサタンレベルの襲撃者ってそんなにいるのかな。
「サタンレベルの襲撃者ってたくさんいるんですか?ゼラン様」
「いや……あまりいないだろうな。少なくとも私はサタン以上の剣の腕を持つ人間は知らない」
「そうだな。私も聞いたことはない。まあ、サタンは元々「人間離れ」した奴だからな」
そうね。サタンは「銀の悪魔」だもんね。
人間離れしていて当然だわ。