表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

192/257

第192話 敵を騙すにはまず味方からです

 視察への出発日。

 私はブランたちと約束している王宮の入り口に向かう。

 サタンとイリナも一緒について来る。


 今回はサタンもイリナもそれぞれ自分の馬で移動する予定だ。

 私はブランの馬車に乗って欲しいと連絡があった。


 王宮の入り口には王家の紋章付きの馬車が用意されていた。

 まだブランとゼランは来てないようだ。


 馬車の周囲には警護する者たちがいる。

 私はその中に見知った顔を見つけた。


「スミスじゃない。おはよう」


「これはアリサ様。おはようございます」


 スミスがいるってことはこの警護する人たちは第一特殊部隊の人たちか。

 確かスミスは副隊長だったはずだ。


「スミスがいるってことは護衛は第一特殊部隊の人なの?」


「はい。今回はブラント王太子殿下の正式な視察ですので私どもが警護します」


「そうなのね。こないだはワイン伯爵に手紙を届けてくれてありがとう」


「いえ、アリサ様のお力になれれば私も嬉しいです」


 スミスはそう言ってニコリと笑う。

 そこへブランたちがやって来た。


「おはよう。アリサ」


 私はすぐに異変に気付く。

 白い王太子の服を着ているのはブランではなくゼランだ。

 そしてその後ろの配下の中に本物のブランは変装して混じっていた。

 今回の変装は茶髪のカツラにマスクをつけて服装は警護の者と同じ騎士服だ。


 なんで王太子がゼランでブランは騎士に変装してるのかな。


 疑問には思ったが今回の視察に必要なことかもしれないと思い私は知らないフリをすることにした。


「おはようございます。ブラン様」


 私は王太子の服を着たゼランに挨拶をする。


「では参ろうか」


 私とゼランが馬車に乗り一行は出発した。

 騎士に変装しているブランは自分の馬に乗り馬車の後からついて来ているようだ。

 馬車の中にはゼランと私しかいないので私は聞いてみることにした。


「貴方はゼラン様ですよね?なぜブラン様と入れ代わっているんですか?」


 するとゼランは僅かに緑の瞳を細める。


「アリサは知らないかもだけど視察をする時はこうやって私がブランの代わりに王太子の姿になることが多いんだ」


「なぜですか?」


「『ブラント王太子』を守るためだ」


 私はそこでハッと思い出した。

 ブランたちが以前に言っていた『王太子は死ぬわけにはいかない』という言葉だ。

 つまりブランの代わりのゼランが襲撃で命を落としても本物のブランは生き延びることになると言いたいのだろう。


 そんなにこの視察は危険なのかしら。


「ゼラン様の仰ることは分かりましたがこの視察はそんなに危険なんですか?」


「別に今回の視察に限らず『正式な視察』の場合はこうやってブランと入れ代わることは多い。正式な視察は他の者にも予定が知れているからね」


 なるほど。視察予定が公になっているから用心しているのか。


「それにこれはただ『ブラント王太子』を守るだけではない。視察する場合はその視察の本来の姿を見るためでもある」


「視察の本来の姿ですか?」


「視察の内容によっては領主貴族が真実を隠蔽してしまう可能性があるってことさ。少なくとも今回の視察は領主貴族と住民の揉め事に関するモノだ。領主貴族が真実を隠す可能性はある」


 そうだった。今回は住民と領主貴族とのトラブルを視察するんだったわ。

 領主貴族としてはたいしたトラブルではないとブランたちに思わせたいと思っても不思議ではない。


「今回は領主貴族にはブラント王太子が一人で視察に行くと説明してある。私が領主貴族の相手をしている間にブランは自由に動けるってことだよ」


「なるほど。ブラン様がトラブルの原因などを直に調べられるということですか」


「そういうこと。ブランが警護の者に混ざっていることは第一特殊部隊の人間も知っている。もっともブランのことは私だと思っているけどね」


「え? じゃあ、ブラン様とゼラン様が入れ代わっているのを知っているのは私だけですか?」


「そうだね。第一特殊部隊の人間だって完全に信頼はできない。『敵を騙すにはまず味方から』って言うだろ?」


 私はゼランの言葉に重みを感じた。

 たとえ自分たちを護衛する第一特殊部隊の人間でも裏切り者はいる可能性がある。

 ブランとゼランはあらゆる可能性を考えて行動しているのだ。


 これが命を狙われる立場の人間ってことね。

 日本にいた私には考えられない世界だわ。


 世界から見てもまだまだ日本の治安は良い方だと言われていた。

 少なくとも「命の危険」を感じながらの生活を私はしたことがない。


 早くこのダイアモンド王国にも「真の平和」が来るといいわね。


「分かりました。ゼラン様。私もそのように振る舞います」


「ありがとう。アリサ」


 馬車は王都を走り抜けて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ