第191話 私はお邪魔虫のようです
私はクリスの部屋の前に来た。
クリスの部屋はホシツキ宮殿の側にあるが私みたいに「宮殿」というわけではなく一つの部屋でしかない。
そう思うと私に「宮殿」を作ったブランやゼランがいかにモンスター王子か分かるような気がする。
私はクリスの部屋の扉をノックした。
「どちら様ですか?」
「クリス。私よ、アリサよ」
「あ、ちょ、ちょっと待ってください」
中から少し慌てた様子のクリスの声が聞こえる。
何か取り込み中だったかな。
「どうぞ」
少ししてクリスの入室許可が出る。
私は扉を開いて中に入ると部屋にはクリスとデリアがいた。
クリスはソファに座りデリアはソファの側に立っている。
なるほど。デリアと会っていたのか。邪魔をしちゃったかな。
「デリアもいたのね。邪魔しちゃって悪かったわね」
「いえ、とんでもありません! アリサ様」
デリアは首を横に振る。
そう言えばクリスとデリアが付き合っているってワイン伯爵に話をしたっけ?
こないだワイン伯爵が来た時には特に話題にはなっていなかったがクリスが個人的にワイン伯爵に話をしている可能性はある。
「アリサ。何か用事でしたか?」
クリスが聞いてきたので私は答える。
「今度私とクリスの誕生日パーティーをホシツキ宮殿で開くことは話してあったわよね?」
「はい。そう聞きましたが」
「その時に呼ぶ招待客を決めようと思って相談に来たのよ」
「そうでしたか。どうぞソファに座ってください」
私はクリスに言われてソファに座る。
「では私はこれで失礼します」
デリアが頭を下げて出て行こうとするので私はデリアに声をかけた。
「デリアも座ってちょうだい。貴女にも関係のあることだから」
「え?」
デリアは意味が分からないという顔をする。
「デリアも関係あるんですか?アリサ」
「そうよ、クリス。まあ、デリア、座ってちょうだい」
「は、はい」
デリアはクリスの横に座った。
う~ん、金髪のデリアと銀髪のクリスが並ぶとやっぱり華やかね。
そりゃ、シャンデリアとクリスタルなんだから当たり前かもだけど。
「クリス。デリアとお付き合いをしてることはワイン伯爵には話してあるの?」
「え? あ、はい。父上には手紙で報せてあります」
「ワイン伯爵はなんか言ってた?」
ワイン伯爵のことだからクリスが選んだ相手に文句をつけるとは思えないが仮にもワイン伯爵家は領主貴族だからいろいろデリアのことを知りたいかもしれない。
「今度王宮に来た時に会わせて欲しいとは言われましたが」
「だったらせっかくの機会だから誕生日パーティーでクリスのパートナーとして皆に紹介したら?」
私はニコリと笑う。
公に二人が付き合っていると公表してしまえばデリアが使用人でもクリスと会っていることを咎める者はいないだろう。
「え、でも、それはクリス様に迷惑なのでは?」
「いや、デリア。私はデリアとは婚約を前提にしたお付き合いをしたいんだ」
クリスがデリアの手を優しく掴んだ。
「クリス様……」
クリスはデリアに微笑む。
デリアもクリスを見つめる。
う~ん、私がいること完全に忘れてるわね、この二人。
仲が良いのはいいことだけどさ。
「コホン!」
私が咳払いするとクリスとデリアはハッとして私の方を見る。
「ではその時にデリアとのお付き合いを発表することでいいわね?」
「は、はい。ありがとうございます。アリサ」
「別にいいわよ。デリアもそれでいいわね?」
「は、はい」
デリアは顔を赤くしながら答える。
「じゃあ、クリス。招待客を決めるわよ。あまり人が多いと経費もかかるから私とクリスの呼びたい人を中心に選ぶわよ」
「そうですね。そうしましょう」
その後、私たちは招待客を誰にするかを話し合った。
話し合いが終わってなんとか招待客のリストができる。
「さあ次はこのメンバーに招待状を出さないとだわね」
「あ、それなら私がやっておきますよ。アリサ」
「クリスが?」
「アリサは明日からブラント王太子とゼラント王子と視察の予定でしょうからその間にやっておきます」
確かに明日から私は視察に行く予定だ。
「じゃあ、お願いしようかしら」
「はい」
「わ、私も手伝います!」
デリアが私に向かって言った。
「デリアも忙しいんじゃないの?」
「いえ、私もクリス様やアリサ様のお役に立ちたいのです。ぜひやらせてください!」
「そう。だったら二人に招待状のことは任せるわ」
「分かりました。デリアと協力してやります」
クリスはそう言ってまたデリアを見つめる。
あ~、はいはい、お邪魔虫は退散しますよ。
「じゃあ、後は二人で相談してね」
私はそう言ってクリスの部屋から出た。