第188話 上に立つ者は重要です
国王説明が終わり総務事務省に私は戻った。
そしてクリスとジルを呼んでブラウン国王から指示があった部分の手直しするように説明した。
「ブラウン国王様がそんなこと言うなんて、さすが国王様ですね」
クリスもまさか王族の個人資産を納税対象にしろと言われるとは考えてなかったようだ。
「そうね。私も正直驚いたけど、ブラウン国王様は本当に『国王』なんだって実感したわ」
私が日本でヒラ公務員で働いていた時も上に立つ者が変わると政策も180度変わることがあった。
それだけ上に立つ者が誰なのかということは重要なことだ。
上に立つ者の言葉で国が左右されるのはこのダイアモンド王国も日本もあまり変わらない。
だからこそ上に立つ者には重い責任があるのだ。
今回の『高位貴族の納税』に関して国内で力を持つ高位貴族の人たちと話してみて彼らには彼らの思いや立場があることが分かった。
公務員だって立場が変われば言うことは180度変わることは珍しくない。
ある職場でどんな仕事をしていて実際にどんな状況なのかその係に所属して働いて知っていてもそこから異動をしてその元いた係の逆の立場の係に配属されればその係に対して無理だと承知していてもその無理な内容をやれと指示することはある。
異動して新しい立場になったらそれが仕事である限りやらないといけない。
そこに個人の思いは反映されない。
滑稽にも見えるがそれが「仕事」というモノだ。
それは民間企業も同じようなモノだろう。
だがだからと言って個人の心がそれを「良し」と思うかは人それぞれだと私は思う。
少なくとも私はそれぞれの立場で「仕事」を忠実に行うことを「悪い」ことだとは思わない。
けれどそれで思い悩む職員もいることは事実だということは忘れてはいけない。
人間は公務員に限らずそんなに簡単に物事を割り切って考えられる人間ばかりではないのだから。
「ではアリサ様。ご指示のとおりに文章を直して事務手続きをいたします」
「ええ、お願いね。ジル」
私は気持ちを切り替えて次の仕事を始める。
まずは仕事の優先順位をつけないといけない。
私は自分のこれからやる仕事を紙に書き出していく。
う~ん、やっぱりパソコンが欲しい!
手書きだとどうしても書いたり消したりで時間がかかる。
一気に事業の問題点や新規事業などを全て思いつくわけでもないから一度手を休めて資料の入った箱を見た。
そういえばブランとゼランの誕生日の準備の資料を確認してくれって言われてたわよね。
私は書類箱からブランとゼランの誕生日に関する資料を出してみて読み始める。
え~と、まずは誕生日前日から誕生日の後日まで王都の大通りで一般国民が祝いのために「祝祭」をするか。
そのためにメインの大通りの交通規制に関する準備ねえ。
単純に「祭り」をするだけでも祭りをするための下準備はいろいろある。
ワイン伯爵領でも祭りをやったがあの時はクリスが中心に準備をしていたので私はあまり何が必要なのかは知らなかった。
そして誕生日の当日は国王様よりブランとゼランにお祝いの言葉とお祝いの品が贈られる式典があってその日の夜は貴族を招待しての祝会が開かれるか。
祝会に呼ばれる貴族への招待状の送付や祝会での料理の内容などをこれからどんどん準備することが書かれている。
少なくとも主要王族たちの誕生日祝いは本当に盛大なモノだと分かる。
それにかかる費用の概算なども書かれている。
まあ、これはある程度は費用がかかっても仕方ないわね。
この国が「国王」が治める国である以上、王族の権威を国民に見せることは必要なことだ。
国王への尊敬や畏怖を国民に持たせることは国を統治するのに必要不可欠だということは分かる。
基本的にはこの資料を作った部署が中心に仕事をしていくようだから私が個別に口を出すことはあまりないかもだけど進捗状況は常に見ておかないといけないわね。
仕事は担当部署に任せるのが基本だが総務事務省のトップは私だから何かミスがあれば私の責任が問われる。
なのでどんな案件でも頭の片隅には入れておいてその事業の進捗状況を確認するのが管理職としての仕事だ。
やれやれ、管理職ってやりがいはあるけど責任は重いわよねえ。
ヒラ公務員でいた頃の方が気楽は気楽だったけど、でもやりがいのある仕事ができるのも悪くないわね。
私はそう思いながら資料のチェックを続けた。
そして私はハッと気付く。
ブランやゼランの誕生日ってことは私も何かプレゼントしないといけないってこと?
キャサリンの時はワイン伯爵領の特産品のワインで済んだけど、同じ物でもいいのかな。
でも二人は私がキャサリンに贈った物を知ってるから同じ物だと気を悪くするかもしれないわよね。
だけど一国の王太子と王子に贈るのに相応しいモノって何だろう。
私は新たな問題を抱えてしまった。