第187話 国王は伊達ではありません
次の日。ブラウン国王への『乗合馬車の運行』と『高位貴族の納税』に対しての説明が行われた。
『乗合馬車の運行』に関してはブラウン国王も「実施してみて問題点が出た場合は改善せよ」と言ってそれを条件に承認されたが『高位貴族の納税』に関してはブラウン国王もさすがに驚いたようだ。
「アリサ首席総務事務官よ。本当に高位貴族たちはこの納税に対して賛成をしたのか?」
「はい。ブラウン国王様。ここに高位貴族の代表者たちが賛成をしたという書面があります」
私はブラウン国王に昨日高位貴族の代表者たちがこの案に賛成した証としてサインしてくれた書面を提出する。
ブラウン国王はその書面を見る。
「確かに、高位貴族の代表者として承認したと明記されているな。しかし、あのホット公爵まで賛成するとはな」
ブラウン国王はどこか遠い目をしている。
以前、ブラウン国王とホット公爵が若い頃にこの国を守るためにそれぞれの役割を全うすることを誓い合った仲なのは知っている。
ブラウン国王にとってもホット公爵というのは特別な存在なのだろう。
その書面はブランもゼランも確認している。
「父上。高位貴族の代表者が認めたのであれば問題ないかと思いますが」
ブランがそうブラウン国王に発言する。
ブラウン国王はしばし考えていた。
どうしたのかしら?やはり高位貴族の反発を気にしてるのかな。
高位貴族の代表者たちが認めたとはいえ全ての高位貴族が心からこの案に賛成したかは分からない。
不満があっても口には出さない者も当然いるだろう。
高位貴族の不満は国王としても無視はできないだろうし。
やがてブラウン国王は口を開いた。
「この案では不十分だ」
「では『高位貴族の納税』に関しては承認はしないということでしょうか?」
ハウゼン宰相がどこか嬉し気な声でブラウン国王に問いかける。
国王が承認しなければこの案件は実現しない。
この国ではあくまで最終的な判断は国王がするのだから。
「もし不備がございましたら再検討いたしますが」
私はここまで来て『高位貴族の納税』の全てが白紙に戻されるのは避けようとブラウン国王に提案してみる。
高位貴族の代表者たちを説得した努力を無駄にしたくないし、現実に改革にお金が必要なのは明白なのだ。
一般国民からの税金を集める方法もあるがそれはなるべく避けたい。
「アリサ首席総務事務官よ。この案にもうひとつ加えてもらいたい。『王族』の個人資産も納税の対象にすると」
「え?」
私はブラウン国王の言葉に驚きを隠せなかった。
ダイアモンド王国では『王族』は特別な存在で一般的な『国民』扱いではないので王族の個人資産から納税しなければならない根拠はない。
ブランもゼランも驚いた表情をしている。
「本当に『王族』の個人資産を納税の対象にしてもよろしいのですか?」
私はブラウン国王に確認する。
確かに『王族』の個人資産はけっこうな資産になることは知ってはいたがそこから納税させる根拠がなかったために断念したのも事実だ。
「かまわぬ。高位貴族が国のためにお金を出すのに我々王族が国のためにお金を出さずしてどうするのだ。王族にはこの国を守り発展させる義務がある」
ブラウン国王はハッキリと断言した。
ブラウン国王って基本的にはブランやゼランに職務を任せることが多いからちょっとみくびっていたけど、この人はやはり『国王』なんだわ。
私は目の前の玉座に座るブラウン国王を見つめた。
「父上の言う通りです。『王族』はこの国を守り発展させる義務があります。私もその案に賛成です」
ブランがそう言ってブラウン国王の意見に賛成する。
「私も同じです。我々は『王族』ですが『王族』だからこそ国民と協力し率先してこの国のために尽くすのは当然かと思います」
ゼランも賛成意見を言う。
ハウゼン宰相だけは不満顔だが国王への反論はできないようだ。
「承知しました。ではその項目をこの案に追加します」
私はそう言ってブラウン国王に頭を下げる。
「もしこのことで不満を唱える『王族』がいたら私に直々に反対意見を言うように伝えよ」
「はい。承知しました」
ブラウン国王への説明は終わり、『乗合馬車の運行』は原案のままで、『高位貴族の納税』に関しては後日文章を追加するという条件で承認された。
私は総務事務省に戻りながら考える。
まさかブラウン国王があんなこと言うなんて予想外だったけどこれで更に収入が増えるわね。
しばらくはこれを財源にすれば問題ないわ。
それにしても『国王』としてふんぞり返ることもできるのにブラウン国王はそんなことはしない。
今回ブラウン国王を始め『王族』も納税対象になれば高位貴族はこの案に『反論』など基本的にはできないだろう。
この国の絶対的存在の国王が自ら「納税」するのだから。
おそらくブラウン国王は『王族』も納税することで高位貴族の不満を抑えるつもりなんだわ。
このダイアモンド王国にとって一つの幸運な出来事はブラウン国王という人物が『国王』であるということだろう。
ブラウン国王のためにも私も頑張らないといけないわね。