第186話 派手なお祝いはいりません
「6月10日なんてあと一ヶ月しかないじゃないか」
ゼランが慌てた様子で言った。
そうね。確かにあと一ヶ月くらいね。
あと一ヶ月で24歳か。異世界に来ても年齢が止まるわけじゃないもんね。
それにしても二人とも何を慌ててるのかしら。
「そうですね。あと一ヶ月くらいですね」
「アリサの誕生日なら国を挙げてお祝いしないと」
「そうだな。まずは全ての貴族たちに招待状を送らねばならない」
「は?」
今、「国を挙げてお祝い」とか言った? しかも「全ての貴族に招待状」とかって何?
「あ、あの、ブラン様、ゼラン様。私の誕生日をなんで国を挙げてお祝いするんですか?」
「そんなの当たり前だろう。アリサは未来の王妃なんだぞ。王妃の誕生日を国を挙げてお祝いするのは当たり前だろ?」
「そうだ。ブランの言う通りだ」
いやいやいや、ちょっと待ってよ!
確かに王妃の誕生日祝いは国を挙げてお祝いするけど、私は「王妃」じゃないからさ!
「いえいえ、ブラン様、ゼラン様。私は「王妃」ではありません。少なくとも今はただの文官の一人です。その私の誕生日の祝いに国費は使えません」
私はハッキリと言う。
「しかし、アリサの誕生日をお祝いしないなんてできないだろう」
「そうだよ。アリサが国費を使いたくないなら私たちの個人資産を使ってもいいし」
だから、個人資産だって私のために無駄遣いしちゃダメだって。
後世に二人の王子の財産を全て貢がせたみたいな悪女で私の名前が残ったりしたらどうするのよ!
「いえ、お祝いしてくれるのは嬉しいですが、お二人の個人資産を使ったりしたら怒りますよ」
「だが……まったくお祝いをしないわけにはいかないし」
ブランもゼランもどうにかしてお祝いをできないか考えているようだ。
まあ、確かに。誕生日のお祝いをしてくれるのは嬉しいことよね。
それにクリスの誕生日でもあるんだからクリスの誕生日はお祝いしてあげたいし。
そこで私は思いついた。
「それならこのホシツキ庭園で小さなお祝いのパーティーを開くなどいかがですか?」
「このホシツキ宮殿で?」
「はい。弟のクリスの誕生日もお祝いしたいので私の身内や知り合いだけを招いた昼間のパーティーだったらかまいませんよ」
「そうか。アリサがそうしたいなら今回はそれでやるか」
「そうだな。アリサの身内や知り合いだけならアリサも楽しめるだろうし」
ブランとゼランはホッとした表情をした。
だが、二人のことなので何かしでかす可能性を考えて私は釘を刺す。
「招待客は私が選びますからね」
「分かった。もちろん私たちは招待してくれるんだろ?」
「ええ。もちろんです」
ブランの言葉に私は笑顔で答える。
ここでブランやゼランを招待しないなんて言ったらこの二人が再びモンスター王子になるかもだもんね。
最近はあまりモンスター的なことはなくなってきたが油断はできない。
この国ではやはり直系王族の発言は強いのだ。
常にこの二人の手綱は緩めないようにしないと。
「じゃあ、私はアリサへのプレゼントを考えておくよ」
「そうだな。私もアリサへのプレゼントを考えないとな」
ブランやゼランが笑顔を私に向ける。
一瞬私は背筋がゾクリとした。
神様。どうかブランとゼランからのプレゼントがまともなモノでありますように。
モンスター王子ですからねえ。
私は神様に願わずにはいられなかった。