第185話 視察の予定が入りました
首席会議が終わりハウゼン宰相はすぐに部屋を出て行った。
私は部屋を出る前に代表者たちにお礼を言った。
「皆様。本日はありがとうございました」
「あら? お礼を言うのはまだ早いわよ」
頭を下げた私にビューティー侯爵が言葉を発した。
「私たちは貴女の今後の働きを見込んで投資したに過ぎないわ。貴女の働きはこれから皆が見ているということよ。だから私たちをがっかりさせないように頑張りなさい」
「ビューティー侯爵の言う通りだ。私たちはアリサ殿が言うこの国を『経済大国』にして民が平和に暮らせる未来に賭けただけだ」
スノー公爵もそう言ってニヤリと笑う。
そして代表者たちも首席事務官たちも部屋を出て行った。
私も総務事務省に戻った。
「アリサ。お疲れ様です。議案は通りましたか?」
「ええ、クリス。首席会議は突破したわ。後は国王様の承認が必要な所まで来たわ」
「そうですか。それは良かったです」
私は今日の代表者たちの言葉を思い出す。
彼らは私の今後の働きに期待すると言って承諾してくれた。
その重責を感じる。
政治に携わる者ってこんな重責をいつも感じてるのかな。
完璧な国は作れないし自分の意見だけで国が動くわけでもない。
それでもこの国をより良くしようと思うのは間違ってないと私は自分に言い聞かせる。
ホット公爵が言っていたが既にできるかどうかではない。どのように成し遂げるかだ。
まずはいろんな課題を整理して優先順位をつけないとね。
事務において大事なことは仕事に優先順位をつけることだ。
何でもかんでもやればいいというわけではない。
優先順位をつけて仕事をすることで混沌としたような仕事も道筋ができる。
とりあえず、明日は国王への説明ね。
私は国王への説明のための準備を始めた。
するとクリスが書類を持って私に話しかける。
「アリサ。7月7日にあるブラント王太子殿下とゼラント王子殿下の誕生日に関する準備の資料が担当部署から来ました。一度目を通してみてください」
「分かったわ」
そうかあと二か月くらいでブランとゼランの誕生日なのね。
キャサリンとは違って誕生日の前後も国民の祝日になるし、準備も大変よね。
私はクリスから資料を受け取る。
まずは国王様への説明が第一優先だからこの資料は明日以降に読めばいいわね。
そう思ってその資料を箱に入れておいた。
その日の夜。私はブランとゼランと夕食を共にした。
「アリサ。首席会議で高位貴族の代表者たちの同意を得たそうじゃないか」
さすがにブランは情報が早いわね。
「はい。でもまだこれから国王様への説明と承認の事務がありますので油断はできません。それに高位貴族の代表者たちにこれからの働きに期待するということで承諾してもらいましたので全てはこれからが重要かと思います」
「まあ、アリサの資料をもらったけど確かにこれからがいろいろ大変だろうね。でもアリサは諦めないんだろ?」
ブランの言葉に私は頷いた。
「はい。自分がこの国の首席事務官になったのも何かの『運命』だと思って頑張ります」
「そうだね。私と出逢ったのも『運命』だよね」
「違うだろう。私と出逢ったのが『運命』だ」
ブランとゼランは相変わらずのようだ。
二人が不毛な争いをしても困るので私は止めに入る。
「私はブラン様とゼラン様のお二人と出逢えて嬉しいですわ」
だって性格に難があっても二人が超絶イケメンなのは変わらないしね。
「まあ、アリサがそう言うなら仕方ないな。ところで話は変わるが近日中に視察に行くんだがアリサも行くかい?」
「視察ですか?」
「ああ。場所はこの王都の隣りの領地だが道路の拡張工事に関して領主貴族と住民が揉めているらしくてな。領主貴族からは問題ないという答えだが住民から訴えが王宮に届いてな。一度現場を見て何が問題なのかを確認しようと思うんだ」
住民と領主貴族が揉めているの?それは確かに何が問題なのか気になるわ。
「分かりました。国王様への説明が終わった後でしたら時間を作りますので一緒に連れて行ってください」
「よし。それならそのように手配しておくよ」
「はい。よろしくお願いします」
私はブランにお礼を言った。
住民とのトラブルっていうのは気になるけどとりあえず王都とワイン伯爵領以外に行けるのは楽しみだわ。
そこで私はふと思い出してブランとゼランに言った。
「そういえばブラン様とゼラン様の誕生日って7月7日ですよね?」
「ん? ああ、そうだよ」
「それがどうかしたのかい?」
「いえ、そろそろ総務事務省が準備を始めるという資料が先ほど私の所に来たのでそれを思い出しただけなんですが」
「そうか。もうそんな時期なんだな。そういえばアリサの誕生日はいつだっけ?」
ゼランに言われて私は答えた。
「私は6月10日です。ちなみに弟のクリスも同じ誕生日です」
『え!?』
ブランとゼランの驚きの声が重なった。