第179話 スノー公爵登場です
首席会議の前日になった。
私は明日の首席会議の書類を念入りに読んで頭に入れる。
明日の首席会議の議題は二つ『乗合馬車の運行』と『高位貴族の納税』だ。
『乗合馬車の運行』に関しては以前にも他の首席事務官たちとやりとりをしているし、財源的にも問題なさそうだし、経済的効果の計算もできている。
この案件に対してはほぼ原案通りに行くだろう。
問題は『高位貴族の納税』の方だ。
既に首席会議に出席する予定の代表者たちは王都に着いたとの連絡は受けている。
元々王都に住んでいる者もいたが領地に住んでいる者もいたので王都まで来てもらったのだ。
各代表者たちの情報についてはブランたちからの話で既に手持ち資料にまとめてある。
おそらく壁として立ちはだかる宰相もこの『高位貴族の納税』には反対してくるだろう。
宰相はともかく他の代表者たちの賛成を得られなければ決定はできない。
「さて、この人たちはどんな意見を言ってくるかしら」
私は呟きながら明日の首席会議のイメージトレーニングをする。
既に宰相以外の首席事務官への根回しはできている。
宰相にも事前説明をしようとしたのだがまたしても「忙しい」と言われて断られた。
まったく、私を嫌いなのは分かるけど公私混同しないでほしいわよね。
私が終業時間まで仕事をして仕事を終えると私は総務事務省を出てホシツキ宮殿に向かう。
当然、サタンもイリナも一緒だ。
「姐さん。明日の会議は重要な会議なんですか?」
イリナが歩きながら私に聞いてくる。
「そうね。首席会議で決められたことがこの国の政治を動かすのよ。もちろん最終的には国王様の承認が必要なんだけどね」
「そうなんですか。サファイヤ王国とは違いますね」
イリナはそう言って何かを考えているようだ。
「サファイヤ王国ではどうやって政治をしているの?」
「国王が全てを決めています。臣下はそれに従うだけです。このダイアモンド王国みたいに文官たちが主導で何かするようなことはありません」
それって『独裁政治』ってことかな。
まあ、ヤーさんっぽい国みたいだから『国王が法律』ってことなのかもね。
そうするとサファイヤ王国と話をする時は国王を納得させなければならないってことか。
「ちなみに国王の命令に逆らうとどうなるの?」
「え? それはもちろん処刑ですよ」
イリナは当然だって顔をする。
ハハ……そんな感じだろうとは思ってたけど、サファイヤ王国に異世界転移しなくて良かったあ。
このダイアモンド王国の妙な異世界感も最初は不満だったけど、サファイヤ王国に転移してたら命がなかったかもしれないわよね。
少なくともこのダイアモンド王国では文官として働けるし。
そんなことを思っていると廊下の向こう側から一人の男性が歩いて来た。
銀髪に青い瞳の背が高い人物だ。
ここは既に王族の住居の近くだからこの辺りを歩いているってことは高位の貴族か王族の誰かかな。
でもあの人の服装は軍服に似ているような。
私はとりあえず道を開けようと廊下の端に寄る。
するとその男性は私の前まで来て声を発する。
「よお、久しぶりだな。サタン」
その男性が声をかけたのは私ではなく私のすぐ後ろにいたサタンだった。
え? サタンの知り合いの人?
「……スノー公爵……久しぶりです……」
サタンはそう言ってその男性に一礼をする。
スノー公爵? この人はサタンをスカウトしたと言っていたあのスノー公爵なの?
そういえばスノー公爵は軍人でもあると言っていたわね。
だから軍服を着ているのか。
「お前が護衛してるってことは、こちらの方がアリサ首席総務事務官殿か。初めまして、アリサ首席総務事務官殿。私はデイヴィス・スノー公爵です」
「初めまして。スノー公爵様。首席総務事務官のアリサ・ホシツキ・ロゼ・ワインです。アリサとお呼びください」
私は突然のスノー公爵の登場に若干驚いたものの挨拶を交わした。
「明日は首席会議に出席させていただきますのでよろしくお願いします」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
私がそう返事をした瞬間、スノー公爵が何か動いたような気がした。
ガキーン!
廊下に金属音が響いた。
え? 何が起こったの?