第178話 女性の価値はそれだけではありません
「ブラン様。今日はグリーン王妃様はいらっしゃらないんですか?」
私はブランに聞いてみた。
「ああ、母上は既にキャサリンには興味が無くてね」
「興味がない?」
「母上の目標は私かゼランが次代の後継者を持つことだからね。私はアリサ以外を妻には望まない。そのことを知っているから母上は『用済み』のキャサリンに興味が無くなったんだろう」
グリーン王妃らしいわね。
確かにグリーン王妃は王家の直系の子供を残すことを第一優先に考えているからブランと婚約を解消した女性のことは眼中にないのかも。
そう思うとキャサリンがなんか哀れね。
そもそも女性は子供を産むだけの価値しかないわけではないことはいつかグリーン王妃にも分かってもらいたいわ。
日本でも一部の伝統を守る家系というのは存在する。
それらの家系にとっては後継者の誕生が重要視されることは多い。
私はそれらの伝統を守る家系を批判する気はないし、それらの家だって必ずしも直系子孫が誕生するとは限らず養子をとって後継者にすることもある。
この国で言えば王家や貴族が自分の家系を守るために子供を産むことが嫁いだ女性に期待されることだと理解できる。
だけど女性の価値はそれだけではないと気付いてほしい気持ちは強い。
「そうですか。それでグリーン王妃様はこのパーティーに参加しなかったんですね」
「まあ、グリーン王妃様らしいわよね。私は女性は子供を産むだけの存在だとは思わないけど」
ジャネットの言葉に私はハッとなる。
今、私が考えていたことだったからだ。
「ビューティー侯爵は女性は子供を産むだけの存在ではないとお考えなのですか?」
「あら、当たり前じゃない。もちろん私も侯爵家の跡継ぎとして生まれたから侯爵家の跡継ぎの子供を産むことを嫌だと思ったことはないわ。でも私は自分で商会も経営してるから女性が仕事で男性に劣るとは思ってないわ。アリサ様もそう思わない?」
ジャネットは笑みを浮かべながらそう答える。
「そうですね。女性の私も首席総務事務官をやってますし」
「そうでしょう? もちろん男性向きの仕事はあるとは思うけど、ただ「女性」だからという理由でその仕事ができないという理由にはならないと思うのよ」
へえ、このジャネットって人物は女性の社会進出には好意的な意見を持っているのね。
この人なら女性の活躍の場を広げていく時には力になってくれそうね。
「ジャネットは昔から『将来は男性に負けない仕事をする』って言ってたもんね」
ゼランがジャネットにそう言った。
「当たり前じゃない。女性だって努力すればできることは多いのよ」
「まあ、そうだな。ジャネットやアリサを見ていると私もそう思うよ」
ブランはしみじみとそう話す。
「貴方たちは仮にも未来の国王になる人物なんだから女性が活躍できる国を作りなさいな」
ジャネットは小声ではあったがブランとゼランにハッキリと言った。
さすがにブランとゼランとは幼馴染だけあって二人にここまでハッキリ言えるなんて凄いわ。
「分かってるさ。だから今もアリサと協力してこの国をより良い国にしようとしてるのさ」
「そういえばアリサ様は貴方たちの婚約者候補だって聞いてるけど、それは本当なの?」
「もちろん。アリサは私と婚約する予定だ」
「違うだろう、ブラン。アリサは私と婚約する予定だ」
相変わらずブランとゼランは私のことになるとお互いに譲らない。
「フフ、貴方たちがそんなに夢中になるなんてますますアリサ様には興味を惹かれるわ」
ジャネットは扇で口元を隠しながら笑っている。
「アリサ様。首席会議で会えることを楽しみにしていますわ」
「はい。その時はよろしくお願いします」
私は軽く頭を下げる。
ジャネットはそう言うと優雅に他の貴族たちの方に行ってしまった。
ビューティー侯爵が現れたのは予定外だったけどうまくいって良かったわ。
そしてキャサリンの誕生日パーティーは無事に終わった。