表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

177/257

第177話 希少なワインです

「ジャネットじゃないか。君も招待されていたのかい?」


 ブランは親し気にその女性に声をかける。


 ジャネット?ってことはこの女性がビューティー侯爵なのね。


 ジャネットは金髪を結い上げていて綺麗な緑色の瞳で微笑んだ。

 ただ美人というだけでなく他者を圧倒する雰囲気の持ち主だ。

 今日の主役のキャサリンでさえ敵わないほどの存在感を放っている。


「ブラント王太子殿下、お久しぶりです。本日はキャサリン様のご招待を受けて参りましたの。それで貴女、その白ワインは本当に『カクテル』なの?」


 ジャネットはブランに挨拶をした後に私に尋ねて来た。


「はい。これは私の実家で作った『カクテル』という白ワインです」


 私はもう一度白ワインの名前を繰り返す。


「実家? なるほど、貴女が首席総務事務官のアリサ様でしたか。私はジャネット・ビューティー侯爵です」


 やはりビューティー侯爵なのね。

 私のことも知ってるのか。まあ、首席会議に出席予定者には私の名前で通知を出していたから当然と言えば当然か。


「ご丁寧にご挨拶ありがとうございます。いかにも私は首席総務事務官のアリサ・ホシツキ・ロゼ・ワインです」


 私が挨拶をするとジャネットは笑みを浮かべる。

 女性から見てもうっとりするような美しさだ。


 ジャネットはブランとゼランの幼馴染らしいけどこの三人が集まっていたら美しい絵画のようね。

 ブランもゼランも幼い頃から絶対イケメンだったろうし。


「でもさすがですわ、キャサリン様への贈り物にその白ワインを差し上げるなんて」


「どういうことなの? ビューティー侯爵」


 それまで黙っていたキャサリンがジャネットに訝し気に聞いた。


「まさか、キャサリン様はご存じないはずはないですわよね?この『カクテル』という白ワインは特別に希少なモノなんです。毎年、ワイン伯爵領でしか採れない種類の葡萄でできていて国王様に献上されている品のはずですわ。ねえ、アリサ様」


「ええ、そうです。ビューティー侯爵様の言う通りこの『カクテル』は毎年僅かしか取れず納税の品の一つとして国王様に献上されているモノです」


 ジャネットの言葉に私もその白ワインの説明をする。

 私がワイン伯爵家にいた時にワイン伯爵がこの白ワインのことを教えてくれたのだ。


 ワイン伯爵家のある一部の領地でしか育たない希少な葡萄から作られたモノで昔から国王だけが飲めると言われているぐらいの価値が高い品物だ。

 逆に希少過ぎて一般にはその白ワインの存在は知られていないくらいなのだ。


 ワイン伯爵の名前は「カクテル・ロゼ・ワイン」と言うがこの白ワインの名前を取って名付けられたらしい。

 ワイン伯爵の名前を最初に聞いた時は「カクテル」なんてふざけた名前だと思ったがちゃんと意味があったのだ。


 貧乏経営が続いていたワイン伯爵家だがそれは事務力の無さが招いた結果であり、ワイン伯爵家は国王に愛される白ワインを代々守り続けてきた由緒ある家柄だったのだ。


 伊達に「ワイン伯爵」なんて名前じゃないんだからね!


「そういえば私も父上に誕生日の日に一杯だけ飲ませてもらったな」


「そうだ。確かにその時のワインは『カクテル』という名前だった。父上は希少なモノだから祝いの席でしか飲まないと言っていたな」


 ブランとゼランの言葉にキャサリンは顔色を変える。


 国王でさえ滅多に飲まない希少なワインを贈り物として贈られるということがどれだけキャサリンに対して私が敬意を払っているかが分かったからだろう。

 心の中でキャサリンのことを悪く思っていても表向きはワイン伯爵家が王族に最高の礼を現したことになる。


 それにもう一つの私の目的は一般に知られていないこの白ワインの存在をみんなに知ってもらい今よりも更に価値を高めるためだ。

 周囲の貴族たちも私の手の中にある白ワインに視線が集まる。


「もちろん知っているわよ。こんな希少なモノを頂けるなんてとても嬉しいわ」


 キャサリンは作り笑いをしながら私から白ワインを受け取った。

 きっと内心は悔しがっているだろう。

 キャサリンはその白ワインを侍従に渡すと他の貴族たちの所へ行ってしまった。


「フフ、キャサリン様は相変わらずねえ。でもアリサ様は噂通りの方だと思いましたわ」


 キャサリンが離れて行った後にまだ私の側にいたジャネットが私に声をかけた。


「ビューティー侯爵様。ありがとうございました」


「あら、私は別に何もしてないわよ。あの白ワインが『カクテル』だって言っただけよ」


 ジャネットはそう言ってウィンクする。


 う~ん、ブランとゼランの幼馴染だけあって一筋縄ではいかない女性っぽいわね。


「いえ、あれが『カクテル』だということを証明してくれただけで助かりました」


「フフ、アリサ様とは今後ともお付き合いしたいと思ってるわ」


「でもよく『カクテル』のことをご存じでしたね?」


「ああ、以前にグリーン王妃様にお裾分けしていただいたの。とても美味しかったわ」


 なるほど。グリーン王妃経由であの白ワインを飲んだことがあるのか。

 あれ?そういえばこのパーティーにはグリーン王妃の姿はないわね。

 キャサリンがグリーン王妃に招待状を出さないわけはない。

 どうしたのかな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ