第176話 キャサリンの誕生日です
私はセーラに翡翠色のドレスを着せてもらってキャサリンの誕生日パーティーが開かれる小ホールに向かった。
今回の招待客は50名ほどだと聞いている。
王族の誕生日などの準備は総務事務省が担当なので私にはジルからパーティーの概要説明があった。
招待客は基本的に貴族の奥様方と貴族令嬢らしい。
そして直系王族での誕生日ではないので特に国民の祝日にはならない。
私が会場に入ると招待客のほとんどは既に小ホールに集まっていたがキャサリンの姿はまだない。
主役は後から登場するものなのだろう。
私はキャサリンに渡すプレゼントの包みを持っていた。
少ししてキャサリンが姿を現す。
今日のキャサリンは深紅色のドレスだ。
豪華に着飾ったその姿はまさに「王族」としての雰囲気を出している。
「皆様。今日は私の誕生日の祝いに集まってくれてありがとう。ゆっくり楽しんでいってくださいな」
キャサリンの言葉が終わると楽隊が音楽を奏でる。
パーティーの始まりだ。
あれ? ブランやゼランは来ないのかな?
キャサリンは多くの招待客から次々に挨拶をされてプレゼントを貰っている。
貰っていると言ってもキャサリンに差し出したプレゼントはそのまま侍従たちが受け取っている。
まあ、自分自身でプレゼントを受け取ることはしないわよね。
そこへ呼び出しの声が聞こえる。
「ブラント王太子殿下並びにゼラント王子殿下のご入場です」
扉が開きブランとゼランが入ってくる。
招待客からどよめきが出る。
ブランとキャサリンが婚約を解消したことは皆知っていたから二人がキャサリンの誕生日パーティーに出席するとは思わなかったのだろう。
「ブラント王太子殿下、ゼラント王子殿下。今日は私のためにお祝いに来ていただきありがとうございます」
周囲に多くの貴族がいるせいかキャサリンは丁寧な言葉でブランとゼランに挨拶をする。
「ああ、おめでとう。キャサリン。これは私からのプレゼントだ」
ブランの側に控えていた侍従が白い薔薇の花束をキャサリンに差し出す。
へえ、ブランの手から直接渡さないのね。それってブランの方が身分が高いからかしら。
それとも単純にキャサリンに自分からプレゼントを渡したくないのかな。
「ありがとうございます。ブラント王太子殿下」
一方、キャサリンは今まで他の者からは自ら受けとらなかったがブランからのプレゼントは自分で受け取る。
キャサリンは満足そうだ。
「これは私からのプレゼントだ」
「まあ、ありがとうございます。ゼラント王子殿下」
ゼランについていた侍従が小さな箱を差し出す。
おそらく中身はクッキーだろう。
それもキャサリンは自らの手で貰う。
「お二人が来てくれるなんてとても嬉しいですわ」
キャサリンはチラリと私の方を見た。
やはり私が思った通りにキャサリンは私を招待することでブランやゼランを自分のパーティーに参加させるつもりだったようだ。
キャサリンが私を利用するなら私もキャサリンを利用させてもらうわ。
私はキャサリンに近付き挨拶をする。
「キャサリン様。本日はお招きいただきありがとうございます」
「あら、そういえば貴女も招待したんだっけ? 忘れてたわ」
キャサリンは持っていたブランとゼランから貰ったプレゼントを侍従に渡して私に向き直る。
「これは私からのキャサリン様へのお祝いの品でございます」
私は持っていた包みを渡す。
その包みを他の貴族からのプレゼントと同様にキャサリンの侍従が受け取ろうとするとそれをキャサリンが止める。
「その品物は何かしら? 仮にも王族の私に相応しいモノなんでしょうね?」
キャサリンは意地悪くわざと大きな声で言う。
これぐらいは想定範囲よ。
「はい。これは私の実家のワイン伯爵領で作られたワインです」
「ワインですって? その包みを開けてみなさい」
キャサリンに言われて私は包みを開けて中のワインを取り出す。
それは白ワインの瓶だ。
「王族の私へのプレゼントがたかが白ワインなんて、ワイン伯爵領は本当に貧乏な土地なのねえ」
キャサリンは勝ち誇ったように笑みを浮かべながらワイン伯爵領を侮辱する。
「おい、キャサリン。そこまで言うことないだろう」
ブランが助け船を出してくれるが私には絶対の自信があった。
「この白ワインの名前は『カクテル』と申します」
「まあ! 『カクテル』ですって!?」
私の言葉に私たちの側にいた女性が声を上げる。
私が女性を見ると金髪に緑の瞳の30歳ぐらいの女性だ。
え? この人誰?