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第170話 まだ結婚はしません

 私は王宮に戻り総務事務省に顔を出した後に再び出かける。

 向かうのは中央宮殿にありながらまだ私が足を踏み入れていない場所。

 ブランとゼランの執務室だ。


 ブランとゼランの執務室に行く時も受付がある。

 私がブランとゼランに会いたいと話すと案内してくれた。

 部屋に行く途中でも他の事務省とは違い、美しい調度品が飾られて絨毯もふかふかしている。


 やっぱり二人は待遇が違うわね。


 私が執務室の前に来ると突然部屋の中から怒鳴り声が聞こえる。


「こんなことぐらいで何日かかってるんだ! 明日までに資料を再提出しなければクビにするぞ!」


 その声は間違いなくブランの声だ。


 な、なに? もしかして何かの修羅場に来ちゃった?


 執務室の扉が開いて一人の事務官が飛び出して来た。

 顔は真っ青で書類を持って廊下を走って行ってしまった。


 今の人が何かミスでもしたのかな?

 それにしても大声で怒鳴りつけるのはやり過ぎじゃない?

 日本だったらパワハラと言われても仕方ないかも。


 私を案内してくれた事務官が私がブランに会いに来たことを伝えてくれる。


「アリサが来ただと? すぐに通せ」


 その声を聞いた私は部屋に入った。

 そしてその広さにちょっと驚いた。

 首席事務官室の約3倍の部屋の広さがあり豪華な執務机が二つ。

 そこにはそれぞれブランとゼランが座っていた。


 え? この二人って執務室も同じ部屋なの?


「アリサ。よく来たな。まあ、そこに座れ」


 ブランがソファに座るように言ったので私は言われた通りに座る。

 するとブランだけでなくゼランも自分の椅子から立ち上がりソファに座る。


「30分の休憩を取る。部屋から退出せよ」


 ブランが命じると部屋の中にいた数人の事務官たちが頭を下げて部屋を出て行った。


「ブラン様。もし仕事が忙しいなら仕事を続けていただいてもいいですよ」


「いや、アリサが来たのにアリサを放っておく訳にはいかないだろう。アリサは私の婚約者なんだから」


「違うだろう、ブラン。私の婚約者だ」


 ブランとゼランはいつものごとく張り合う。


「いえ、ブラン様、ゼラン様。私は『婚約者』ではなく『婚約者候補』ですから」


 いったい何度言えば分かるのよ!


「アリサは意外と頑固だな」


 ゼランは僅かに笑った。


 頑固なのは貴方たちの方よ。

 そういえばさっきブランに怒鳴られた人が何のミスをして怒られたのか聞いてみようかな。

 理不尽な理由だったらちゃんとブランに注意しないとだし。


「ブラン様。先ほど『資料を再提出せよ』と怒っていた人がいましたよね?」


「ん? ああ、そうだな」


「あの方は何のミスをしたんですか?」


「あの男には新しく建設する王家専用の式場の仕事を任せていたのだがどうしても私が言った期日までには完成できないと言って資料を持って来たのでな」


 王家専用の式場を言われた期日までに建設できないことが原因か。

 そんなに早く建設しなければならない式場なのだろうか?


「ブラン様。その式場は早く完成させなければならない理由があるのですか?」


「もちろんだ。その式場で王族の挙式をするのだから」


 へえ、そうなのか。確かに挙式の予定があるなら建設を急ぐ気持ちも分かる。

 王族の結婚式なら関係者もたくさん呼ぶだろうし、おそらく招待する者たちも身分が高い者が多いから出席するために仕事の都合もつけないとだから挙式の予定日が決まってたらそれまでに式場を完成させるのは当然かもしれない。


 でも王族の誰が結婚するのかな?

 まだ私は王族の全ての人間を知らないのよね。


「それでその新しい式場で挙式する王族の方はどなたですか?」


 私の問いにブランとゼランは顔を見合わせる。


「そんなの決まってるだろう。私たちだ」


「え?」


 ブランとゼランが結婚するの!?

 もしかしてキャサリンとカテリーナとの婚約が元に戻ったのだろうか?


「ブラン様とゼラン様が結婚するということはお相手はキャサリン様とカテリーナ様ですか?」


 私がそう言うと明らかにブランもゼランも不愉快な顔になる。


「何を言っているんだ、アリサ。私たちのどちらかとアリサの結婚式に決まっているだろう」


「は?」


 今、なんて言ったの?

 私とブランかゼランの結婚式ですって!?

 まだ婚約もしてないってさっき言ったわよね!


「ちなみにその式場の完成はいつまでと仰ったんですか?」


「一か月後だ」


 ブランは当然だと言わんばかりの顔だ。


 冗談じゃないわよ!

 一か月後に私と結婚する気でいたの!?

 いえ、ここはまず落ち着いてその計画をできるだけ先延ばしにしないといけないわね。


「ブラン様、ゼラン様。新しく建てる式場で私との挙式を予定するなら私の希望を取り入れた式場にして欲しいんですが」


「アリサの希望?」


「はい。結婚するというのは人生においてとても大切な出来事です。なので私が希望するような式場を建ててそこで挙式をしたいのです」


 私は笑顔でお願いする。

 公務員として鍛えた窓口スマイルだ。


「ブラン。アリサの言う通りにアリサの希望を取り入れた式場にした方がいいんじゃないか?」


 ゼランがそうブランに言う。


「そうだな。アリサにとっては一生に一度の想い出になるわけだしな。仕方ない、式場のデザインからもう一度考え直すか」


「ありがとうございます。ブラン様。ゼラン様」


 よし! これで式場のデザインに迷っていることにして時間を稼げるわ!


 私は笑みを絶やさぬまま密かに拳を握った。 


「そういえばアリサは何か用事があったのかい?」


 そうだった。本来の目的を忘れるところだったわ。


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