第167話 私は姐さんですか
「ねえ、イリナ。姐さんって私のこと?」
私は聞き間違いかもしれないとイリナに尋ねる。
「はい! 貴女様は私の『姐さん』です!」
イリナは元気よく答える。
どうやら聞き間違いではないらしい。
でもなんで私が「姐さん」なのよ。
私はヤーさんの奥さんじゃないんだけど……。
「何で私が『姐さん』なの?」
「え? それは見ず知らずの私を助けてくれた貴女様は私の中では尊敬する高貴な女主人ですから!」
「は?」
助けてくれて私を尊敬するのは百歩譲っていいとしても、なぜそれが「姐さん」になるのだろう?
「イリナ。貴女の国では尊敬する高貴な女主人を『姐さん』って呼ぶの?」
「え? はい、そうですよ。自分の仕える尊敬する高貴な女主人のことを親しみを込めて呼ぶ時は『姐さん』って呼ぶんです!」
私は頭が痛くなってきた。
イリナってサファイヤ王国の人間よね?
サファイヤ王国ってヤーさんの国なの!?
「親しみを持って呼ぶのは失礼でしたか?」
イリナが恐る恐る私に聞いてくる。
いや、親しみを持って呼んでくれるのはかまわないが、それが「姐さん」というのはどうなのよ。
しかし私はイリナの心底私を尊敬してますという輝いた瞳を見てイリナの気持ちを否定することが出来なかった。
「いえ。サファイヤ王国ではそれが普通なら別にそれでいいわ」
「ありがとうございます! 姐さん!」
本気で自分がヤーさんの妻になった気分だわ。
まだ結婚もしてないけどさ。
それにしてもサファイヤ王国もぶっ飛んだ文化の国ね。
「ではブラン様、ゼラン様。イリナも承諾してますし、イリナを私の「見習い護衛騎士」に雇うことでいいですよね?」
「まあ、アリサが望むならそれでかまわない。確かに、同性の護衛がいた方がいいだろうし」
「そうだな。ブランの言うようにその方がアリサのためになるし」
ブランとゼランは承諾してくれた。
良かったわ。ところでイリナは何歳だろうか?
「イリナって何歳なの?」
「私は14歳です!」
14歳かあ。その年齢で結婚を強要されるのは可哀そうよね。
いくら大人でもさ。
ん? でもサファイヤ王国も成人は12歳なのかな?
「イリナ。サファイヤ王国の成人は何歳なの?」
「15歳です」
「え? じゃあ、イリナはまだ未成年なの?それじゃあ、結婚できないんじゃないの?」
「未成年でも婚約はできるので父が勝手に婚約者を決めて私が成人したらすぐに結婚させるつもりだったみたいです」
そうなのか。それじゃあ、イリナが反発するのも無理ないかな。
でもサファイヤ王国では15歳が成人か。
ちゃんと覚えておかないとまたどこかで落とし穴がありそうよね。
この異世界って微妙な異世界感だからマジで注意しないと。
「じゃあ、とりあえず今日は王宮に戻りましょうか」
「そうだな。サーカスの時間は過ぎてしまったし」
「仕方ない。帰るか」
私とブランとゼランはそう言って席を立つ。
「姐さんも王宮に住んでいるんですか?」
イリナは私の横を歩きながら尋ねて来る。
「まあ、いろいろあってね」
「アリサは私の婚約者だ」
「いや、違うだろう。私の婚約者だ」
「ええ!!??」
ブランとゼランの言葉にイリナは驚きの声を上げる。
いやいや、いつブランやゼランと婚約したのよ!
あくまで婚約者候補でしょうが!
私はドッと疲れを感じるがここで騒いでも周囲の迷惑になると思い何も言わなかった。
イリナはそんな私を輝く瞳で見ている。
う、イリナの視線が痛く感じるわ。
後でイリナにはちゃんと説明しておかないとね。