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第165話 少年ではありませんでした

 私は少年の体を触り気づいた。


 あれ?髪が短くて服も男物だから気付かなかったけどこの子女の子だわ。


 女の子なら尚更こんな所に放っておけない。


「大丈夫?」


 私がもう一度彼女の身体を揺するとその赤茶色の髪の女の子が顔を上げる。

 瞳は綺麗な青い瞳だ。


「お腹が……」


「お腹?」


 腹痛でも起こしているのだろうか。


「お腹が……空いて……」


「え?」


 お腹が空いて動けないってこと?


 私は改めて彼女を見るが服装もかなり汚れているが腰には細い剣を持っている。


 女の子が剣を持ってるなんて珍しいわね。

 もしかして女の傭兵とかなのかな。


 王都にいる王国軍は全て男性だ。

 彼女は王国軍の兵士ではないだろう。

 そもそもこんな華奢な身体で剣を振り回せるのか疑問だ。


 でも今はそんなことどうでもいいわね。

 とりあえず彼女に食事を与えないと。


「ねえ、貴女の名前は?」


「イリナ・メア」


「そう、私はアリサ・ホシツキ・ロゼ・ワインよ。立てるようなら近くのお店でご飯を食べさせてあげるわ」


 イリナと名乗った少女は目を見開いて私を見つめる。


「本当ですか?」


「ええ。立てる?」


「はい」


 イリナはフラフラと立ち上がった。

 私はその身体を支えてあげる。

 そこにブランとゼランがやって来た。


「どうかしたのか? アリサ」


「ブラン様。この子に何か食べ物を食べさせたいので近くの食堂に行ってきます」


 ブランは私に支えられているイリナを見ると瞳を険しくした。


「なんだ、その薄汚い男は?」


 ブランもやはり見た目でイリナを少年と間違えているようだ。

 ブランはスラリと腰に差してあった剣を抜いた。


 わわっ! ちょっといきなり剣を抜かないでよ!

 こんな人前で王太子が剣を抜いたら何事かと思われるわよ!


 周囲の人々がザワリとして遠巻きに私たちのことを見ている。


 ここはちゃんと説明しないとよね。

 また私が男と仲良くしたなんて言われても困るし。

 この子の首を刎ねられたら一大事だわ!


「いえ、この子は女性です。名前はイリナ・メアさんって言っています」


「女性?」


 今度はゼランが確認してくる。


「はい。そうです。ゼラン様。イリナさん、貴女は女性よね?」


 私が尋ねるとイリナは弱々しく頷く。


「はい。私は女です」


 その言葉にブランもゼランも態度が柔らかいモノに変わる。

 ブランは剣をしまった。


 ふう、とりあえず良かったわ。


「それで何でそのイリナに食事をさせるのだ?」


「それがお腹が空いて動けないようなので……」


「しかしそれではサーカスの開演時間に間に合わないぞ」


 私はブランを睨みつける。


「サーカスと国民の命とブラン様はどちらが大切ですか?」


「そ、それは……」


 私の怒気を含んだ言葉にブランは焦ったような表情になる。


「無論、国民の命だ」


「だったら彼女を食堂に連れて行きます」


 そう言って私がサーカスのある広場の近くにある食堂らしき建物にイリナに手を貸しながら歩いて行く。


「……アリサ様……私が代わりましょうか……」


 いつの間にか側にいたサタンがイリナを支える私の代わりを申し出てくれるが私は首を横に振る。


「大丈夫よ。それよりお店に先に行って席を確保して来てちょうだい」


「……はい……分かりました……」


 私とイリナの後にブランとゼランがついて来る。

 そして食堂に入ると食堂は大騒ぎになった。

 突然王太子と王子がやって来たのだから仕方ないだろう。


「主人。悪いが少し世話になる。この娘に何か食事を与えてほしい」


「あ、できれば消化のいいモノをお願いします」


 ゼランの言葉の後に私は付け足す。


 倒れるぐらい空腹なら最初は消化の良いモノがいいもんね。


「承知しました!」


 店の主が厨房に姿を消して店員さんが用意してくれた席に私たちは座る。

 少しすると料理がいろいろと運ばれて来た。

 リゾットや柔らかい煮物などおいしそうな匂いが充満する。

 イリナは再び私を見た。


「あ、あの、私はお金を持っていません。食べてもいいんですか?」


「かまわないわよ。お腹いっぱい食べて」


 私はニコリと微笑む。


 私もお金を持っているし足りなければブランやゼランに借りればいい。

 ブランとゼランはこの国のATMみたいな二人だから心配はいらない。


 まあ、無駄遣いはさせるわけにはいかないけどね。


「じゃあ、遠慮なくいただきます!」


 そう言ったイリナは物凄い勢いで食べ始めた。

 その勢いに私もブランもゼランも呆気にとられる。


 いや、そんなにいきなり食べて胃がビックリしないかな?


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