第162話 食べ物の恨みは恐ろしいです
私たちはホシツキ宮殿の食堂に移動して夕飯を食べることにした。
ウルフの分の夕飯も用意されていた。
ワイン伯爵からホシツキ宮殿に来る人数をセーラは聞いていたのかもしれない。
私は買っておいたワイン伯爵への贈り物を渡した。
クリスも同様にワイン伯爵に贈り物を渡す。
ワイン伯爵は涙を流しながら喜んでいる。
「娘と息子に贈り物をもらうなんて私はなんて幸せな父親だろう」
ワイン伯爵が喜んでくれて良かったわ。
「アリサ、クリス。大事に使わせてもらうからね」
「ええ。これからも頑張って領地経営をしてくださいね」
「ああ、分かったよ」
ワイン伯爵は大事そうに私たちの贈り物を自分のカバンにしまう。
そういえばウルフたちは問題なく警備員の仕事をしているのかしら。
「ウルフ。警備員の仕事は順調なの?」
私は大きなステーキの塊を食べているウルフに尋ねる。
相変わらず肉が好きらしい。
「ああ、今は部下の者も仕事を覚えて普通に働いているよ。奴らは基本的に自分で望んで盗賊になった奴らではなかったからな」
「それってどういうこと?」
「ん? 失業したり元々孤児で身内がいなくて路頭に迷っていた奴らを先代が集めて盗賊団を作ったのさ」
「ふ~ん、そうなんだ」
「まあ、食っていくには盗賊は悪いことなんて言っていられなかったってことさ」
なるほどね。背に腹は代えられぬってところかしら。
「でも奴らは最近は自分たちの警備員の仕事に誇りを持ち始めている。アリサのおかげだよ」
「いえ、そんなことはないわよ。でもみんなが自分で納得して働けているのなら良かったわ」
「だけどアリサの所に『銀の悪魔』がいるとは思わなかったぜ」
ウルフは食堂の隅で待機しているサタンにチラリと目をやる。
サタンはいつもは私がホシツキ宮殿の部屋にいる時は廊下に待機していることが多いが先ほどのウルフの件があったせいか今は食堂内で待機している。
ウルフが私を襲うとか考えられないけどサタンはウルフとは初対面だしね。仕方ないか。
「それにしてもいきなりサタンに勝負を挑むなんてやめてよね、ウルフ」
私がウルフに注意するとウルフはニヤリと笑う。
「剣の腕前に少しでも自信がある奴なら『銀の悪魔』と一度でも戦ってみたいと思うのは仕方ないことだと思うぜ。あんな伝説を聞いたらよ」
「伝説? サタンの負け知らずの伝説のこと?」
「それもあるが一番有名なのは盗賊団100名を一人で皆殺しにした事件だ」
「え?」
一人で100人を殺したですって!?
それって本当なの!?
「ウルフ! その話は本当なの?」
「ああ。昔、ダイアモンド王国の北の土地で暴れてる盗賊団がいたんだ。殺しや女や子供の誘拐はいつものことで盗賊の人数も多かったため王国軍が直々に討伐することになったんだ」
そんな危険な盗賊団がいたのね。
「ところが盗賊団のアジトに王国軍が攻め込んだらそこには100名の盗賊の死体と共にいたのがこの『銀の悪魔』さ。『銀の悪魔』に話しを聞いたら全員自分が殺したって話したらしい」
マジで? でも何でサタンは盗賊たちをみんな殺してしまったのだろう?
サタンの性格からして悪者だから退治してしまおうなんて考えはないわよね、きっと。
「サタン。今のウルフの話は本当なの?」
私は食堂の隅にいるサタンに話しかける。
「……はい……」
「何で盗賊たちをこ……いえ、壊滅させたの?」
「……私の好きな……」
え? サタンの好きな?
もしかして好きな人をその盗賊団に殺されたりしたの?
「……食べ物を盗られたので……」
「はあ!?」
今、食べ物って言った!?
「食べ物!? サタンの好きな!?」
「……はい……」
ちょっと待って!自分の好きな食べ物盗られたからって相手の盗賊団を皆殺しにするってことある!?
そこで私はサタンがそこまで怒った原因が閃いた。
「もしかしてそれはサタンがこのダイアモンド王国にある一番好きな食べ物のこと?」
「……はい……」
やっぱり、そうだったのね。
サタンが月給1000万円の仕事も断ってこのダイアモンド王国にいる理由でもあるその食べ物が原因なのね。
食べ物の恨みは恐ろしいとよく聞くけど、その盗賊たちはサタンの好きな食べ物を盗ったから殺されたのか……。
マジでサタンには気を付けないとだわ。
うっかりサタンの好きな食べ物を横取りでもしたら私の首も飛ぶかもしれないわね。
それにしてもサタンを悪魔にさせるその食べ物が気になるわ。