第158話 悪魔はストーカーではありません
オタク事務省に行くとギークが『乗合馬車の運行』の予算の積算の資料を取り出して説明を始めようとした。
「まずは馬車を用意する費用だけど……」
「ちょっと待ってギーク」
「なに? どうかした?」
私はギークの説明を聞く前に考える。
この予算の要求に関することは後で首席財務事務官のコインに話すことになる内容だ。
それなら直接ギークとコインと私が話し合った方がいい。
ギークから聞いて私がコインに説明すると何か情報の洩れがあるかもしれないし、私が気づかないことをコインが指摘する可能性もある。
話というのは間に人が入れば入るほど元の情報が変化しかねない。
その人に悪気は無くても伝達する時にその人の考えがプラスされてしまうことは多々ある。
「どうせならコイン様を入れて説明を聞きたいんだけど」
「コインを?」
あら、ギークは他の首席事務官も呼び捨てなのね。
「そうよ。三者で話し合った方が一度で説明も済むしコイン様だって財務事務官の立場でギークに聞きたいことがあるかもしれないじゃない?」
「アリサがそういうなら別に僕はかまわないけど」
「じゃあ、コイン様の所に行きましょう」
私とギークは財務事務省に向かう。
財務事務省に向かう途中でギークが話しかけてくる。
「そういえばアリサっていつも『銀の悪魔』と一緒だけど気にならないの?」
「え? サタンのこと?」
サタンは今も私とギークの少し後ろを歩いている。
自分のことが話題になってもサタンの表情は変わらない。
「まあ、最初は四六時中護衛をするのはどうかなと思ったけど、サタンが絶対に私から離れないから仕方ないかなって今は思うけど」
「ふ~ん、まるでアリサのストーカーみたい」
は? ストーカーですって? 変なこと言わないでよ。
サタンは仕事で私の護衛をしてるんだから。
「ギーク。言葉には気を付けてよ。サタンは護衛という仕事をしてるだけなんだから」
「だってさ。普通の護衛はこんなにいつも同じ人物が務めることはないよ」
まあ、それは確かにそうよね。
相変わらず夜もサタンはゆっくり寝てないみたいだし。
そういえばサタンはブランの命令で私の護衛をしてるのだからブランから言ってもらえばサタンも夜ぐらいは休むかしら。
「ねえ、サタン。貴方はブランの命令で私の護衛をしているのよね?」
「……はい……」
「ブランには夜の休息も無しに護衛しろって言われたの?」
もしそうならブランにちゃんとサタンを休ませるように言わないといけないわ。
「……いえ……護衛をしろと言われただけです……」
ん? じゃあ、夜中もいつも護衛しろって言われたんじゃないのかな。
「じゃあ、夜中は別の人に代わってサタンは休んだ方がいいんじゃない?無理してたらいつか倒れるわよ」
「……私が……好きでやっているので……」
「え?」
「ほら、やっぱりストーカーじゃん。好きって言ってるし」
サタンの言葉にギークは面白そうに話しに入ってくる。
「あのね。ちょっとギークは黙っててよ。サタンの好きは恋愛の好きじゃないから」
私はギークに言い返してはいたがサタンが自分の意思でずっと護衛してるとは思わなかったから若干の驚きはある。
「なんで四六時中私の護衛をするの?」
「……それは……私の勘です……」
「勘?」
「……アリサ様を必要な方だと……」
「ほら、アリサが必要って言ってるし」
「だからギークは黙ってなさいよ。ややこしくなるでしょ!」
サタンが私を必要ってそれは別に恋愛での意味ではないわよね、きっと。
「この国に私が必要だからってこと?」
「……私にも分かりません……私の勘なので……」
勘ねえ。まあ、サタンは常人とは違うところがあるからあまり追求してもこれ以上の答えは無理ね。
「分かったわ。サタンが自分でそう思うなら貴方の意思を尊重するわ」
「……はい……」
隣でギークはにやけていたけど私は無視する。
そもそも私はブランとゼランの二人にプロポーズされているからこれ以上他の人から好意を寄せられても困ってしまうし。
それにしてもサタンがストーカーなんて考えがよく浮かぶわね。
ただ四六時中私の側にいるだけじゃない……って、それは確かに日本だったらストーカーかもしれないわ。
いやいやサタンは護衛なんだから。
ギークが変なこと言い出すのが悪いのよ、まったく。
私たちは財務事務省に着いた。